メ−ルマガジン
 

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   エチオピア・フィールド・ステーションだより 
     Ethiopia Field-Station News Letter 
   http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/efs/ 
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              July. 2006[Vol.010] 

            【もくじ】 

 □ フィールドたより:松波康男 
 □ コラム:エチオピアにおける巡礼 
 □ EFS通信 No.10 
  (1)京都シンポジウム、サテライト・ワークショップのお知らせNo.3 
  (2)エチオピア南部諸民族州への給水計画(第2期)に対する無償資金協力 
  (3)第16回国際エチオピア学会のお知らせ:2007年7月2日〜6日 

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        ■ フィールドたより ■ 
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       「参詣調査でのある出来事」 

    松波康男・南山大学人間文化研究科人類学専攻 

「もうだめだ、歩けない。」ぼくはその場に崩れた。聖地を目指すムス 
リム参詣者の同行調査をはじめて3日目のことであった。エチオピアの 
ムスリムやキリスト教徒のあいだでは、何日もかけて徒歩で国内の聖地 
を巡礼することが、盛んにおこなわれている。(エチオピアの巡礼につ 
いては下記コラム参照) 

彼/彼女らに肩を借り、担がれた先はキリスト教徒の民家であった。す 
でに日は暮れ、近くに他の民家はなかった。表にあらわれた民家の主人 
はムスリム参詣者の話を聞き、参詣者とぼくの宿泊先にと快く自宅の庭 
を提供してくれた。ぼくは大の字になって庭に倒れた。完全に疲弊しき 
っていた。 

山道に苦しめられ、3日間懸命にあるいても60kmしか進んでいなか 
った。「聖地である聖者廟まではまだ100kmを下らない、最後まで 
歩けるのだろうか。」そんなことを仰向けになったまま考えていると、 
家屋から音が聞こえてきた。キリスト教徒である民家の主人が奏でる単 
弦楽器マシンコの音であった。 

単純な旋律の繰り返しが心地良よく、ぼくは考えることを止め、空の星 
をぼんやり眺めた。しばらくすると20人を下らないムスリム参詣者ら 
が輪になって、神への祈りを唱和しはじめた。それは韻と旋律が独特な、 
心に響く祈りであった。ぼくは目を閉じて双方の音に集中した。その二 
つの音は影響しあい、しだいに同調し、重なり、一つの音となっていっ 
た。ただ、美しかった。 

目を開けると参詣者は出発の準備をしていた。もう朝であった。遅れな 
いように起き上がり、歩き始めると、不思議なことに疲労は完全に消え 
ていた。その4日後、参詣者とぼくは無事に聖者廟へ到着し、他の参詣 
者らの祝福を受け、聖地にたどりついた喜びを分かち合ったのである。 

>松波康男さんは、第15回日本ナイル・エチオピア学会学術大会公開 
シンポジウムにおいて「非日常空間の日常性:ヤア聖者廟村」というタ 
イトルで映像作品を発表されました。また2005年度土門拳文化奨励 
賞(「エチオピアのこどもたち」組写真30枚)を受賞されています。 
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          ■ コラム ■ 
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       「エチオピアにおける巡礼」 

エチオピアでは、松波さんが紹介してくださったイスラム教のほか、キ 
リスト教エチオピア正教、ユダヤ、カソリック、プロテスタントの信者 
のあいだでも巡礼が盛んにおこなわれています。ドナルド・レビン(2 
000)は、エチオピアの巡礼志向ともいえる現象について、エチオピ 
ア人一般にみられる共通の特徴であり、異なる宗教をも包含する活動と 
しておこなわれ、民族的な背景を超えて人びとをまとめる作用が期待さ 
れると解釈しています。エチオピア正教の場合、毎月決まった日に特定 
の教会で催される祭りに多くの人が遠方にある教会へ詣でるという習慣 
があるほか、洗礼をうけること、病気直しの聖水を手に入れること、健 
康や学業などの祈願のためのお参りもおこなわれています。また、千年 
以上にわたってキリスト教文化を保持してきたエチオピア高地の人びと 
のあいだには、巡礼をおこなう人びとを支えるという考え方がひろくみ 
られるようです。 

>エチオピアに限らず世界の巡礼に関して、野町和嘉さんが数々の写真 
集を出版していらっしゃいます。以下のサイトで野町さんがこれまでに 
出版された写真集をご覧になることができます。 
http://www.bk1.co.jp/author.asp?authorid=110000771970000 

[参考文献] 
Donald N.Levine. 2000(1974). Greater Ethiopia, 2nd edition. 
The university of Chicago press. 
http://www.press.uchicago.edu/cgi-bin/hfs.cgi/00/1364.ctl 
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          ■ EFS通信 No.10 ■ 
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(1)京都シンポジウム、サテライト・ワークショップのお知らせ No.3 
2006年11月9日から13日までのあいだ、京都大学において国際 
シンポジウム(総合的地域研究の新地平:アジア・アフリカからディシ 
プリンを架橋する)が開催されます。第3回目は、川瀬慈さんが代表者 
をつとめるサテライト・ワークショップ「地域研究における映像的な知 
の探求」について紹介します。 

■「地域研究における映像的な知の探求」 
Expanding the Horizon of Area Studies through Film Presentation 
川瀬慈(代表者) 

国内外の映像人類学者と地域研究者がフィールドワークに基づいて制作 
した映像作品を発表するとともに、作品制作に関する議論をおこない、 
地域研究における映像作品の制作と活用に関する新地平を開拓すること 
を目指しています。フランス、イギリス、カメルーン、そして日本から 
映像人類学者を招き、それぞれの作品を上映する前に、作品の目的、問 
題意識や議論の背景、撮影や編集の仕方などについて発表者が口頭発表 
をおこないます。映像作品にあらわれる調査地域の人びとと研究者との 
関係性や、映像制作における研究者(撮影者)の立場性(ポジショナリ 
ティ)について、総合討論の場を設けて議論します。 
>サテライト・ワークショップ:「地域研究における映像的な知の探求」 
http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/kyotosympo/satellite/index05.html 


(2)エチオピア南部諸民族州への給水計画(第2期)に対する無償資金協力 
平成17年6月に、日本政府とエチオピア政府とのあいだでとりかわさ 
れたエチオピアの「南部諸民族州給水計画に対する無償資金協力」に引 
き続き、第2期の実施が決まりました。この無償資金援助は、南部諸民 
族州のうち特に旱魃の影響を受けやすい、10県14郡における給水施 
設の建設が対象となっています。 
>「南部諸民族州給水計画(第2期)」(平成18年6月23日) 
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/18/rls_0623g.html 
>「南部諸民族州給水計画に対する無償資金協力」(平成17年6月20日) 
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/whats/050620_01.html 


(3)第16回国際エチオピア学会のお知らせ 
第16回国際エチオピア学会が、2007年7月2日〜6日にかけて、 
ノルウェーで開催されます。参加登録は、2006年10月1日まで 
です。登録手続きは以下のサイトでおこなうことができます。 
https://www.svt.ntnu.no/ices2007/index.php?page=paper 
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          ◇ 編集委員から ◇ 
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おかげさまで、エチオピア・フィールド・ステーション・メールマガ 
ジンも今回で10号目の配信となりました。今後ともご講読をよろし 
くお願いいたします。(金子守恵) 
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