メ−ルマガジン
 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    
     エチオピア・フィールド・ステーションだより      
       Ethiopia Field-Station News Letter    
     http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/efs/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━               
               Jan. 2007[Vol.013]             


            【もくじ】  

     □ フィールドたより:佐川徹  
     □ EFS通信 No.13  
     (1)京都国際シンポジウム閉会
     (2)エチオピアから客員教授・研究員来日
     (3)エチオピアの軍事介入でソマリア暫定政府が全土ほぼ制圧

-------------------------------------------------------------------------------
          ■ フィールドたより ■
-------------------------------------------------------------------------------

           「災いと恵み」

  佐川徹(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

今年の8月半ばに「エチオピア西南部の高地に発するオモ川の氾濫によ
って周辺地域に大きな被害がでた」との報道がくりかえしなされた。そ
の最大の被害者は、オモ川が流れ込むトゥルカナ湖の北岸(標高約38
0m)にくらすダサネッチの人びとであった。ぼくはちょうどその時期
にかれらの村に滞在していた。ぼくが暮らしていた村も周囲を水に囲ま
れ、町へ出るためには胸にまで浸かる水をかき分けてすすまねばならな
かった。友人の家畜は水に流され、モロコシを貯蔵した穀物庫は水に浸
かった。

川の水位がもっとも高くなった10日ほどのあいだ、増水によって村に
取り残され身動きが取れなくなった人びとを救出するために、アワサ(
州都)からやってきたヘリコプターとモーターボートが毎日町と村のあ
いだを往復していた。メレス首相が視察に訪れたこともあってか、エチ
オピアのマスメディアは連日このニュースを伝えていたようだ。10月
にアジスアベバにでてきたぼくは、何人かの知り合いから「ひどい災害
だったようだけれどだいじょうぶだった?」と心配してもらった。

しかしダサネッチの人びととともに暮らしていて、ぼくはこの洪水が「
大災害」であるという印象をもたなかった。町に向かう際に泥と水に足
を取られて転んだぼくが「オモ川のくそったれ」と吐き捨てると、とも
に歩いていた友人は川を罵ったぼくをいさめて言った。「まあそういう
な。いまから半年もすればここはすべてモロコシ畑だ。今年はわれわれ
の腹が空くことは決してないだろう」。

オモ川が氾濫するのはなにも今年にかぎったことではない。そして毎年、
氾濫は人びとに恵みをもたらす。川は5〜6月ごろから高地の降雨を受
けて増水を開始し、7〜8月ごろには河岸を越えて氾濫し平野を水が覆
う。この水が高地から運んできた肥沃な土壌は、土地の生産力を上げる。
ひと月もしないうちに平野に達した水が引き始めると、人びとはそれら
の土地にモロコシを播種し始める。氾濫原の豊かな栄養分を受けてモロ
コシはみるみるうちに成長し、11月ごろには最初の収穫期を迎える。
また、乾燥地域で家畜を飼養するためには乾季に水と牧草をどう確保す
るのかがもっともむずかしい問題だが、ダサネッチの家畜たちは川の水
と氾濫がひいたあとに生えてくる青草のおかげで乾季でも安定した搾乳
量を保つ。ダサネッチ・ランドでは12〜3月の乾季が一年でもっとも
食糧が豊富な時期だ。収穫したばかりのモロコシにたっぷりのミルクや
バターを混ぜて食る。この地は降水量が400ミリ程度であるにもかか
わらず、オモ川の氾濫のおかげで豊かで安定した食糧生産が可能となっ
ているのである。

>エッセイの続きは、以下のサイトでご覧になることができます。
http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/efs/j/research/sagawa2.html

>佐川さんは、今回のオモ川氾濫の報道があった時期にその地域で調査
をおこなっていました。エッセイのなかには、わたしたちがこれまでメ
ディアから得られた情報とは異なる、彼らのオモ川との関わり方の歴史
をうかがい知ることができます。(金子守恵)
      
-------------------------------------------------------------------------------
          ■ EFS通信 No.13 ■
-------------------------------------------------------------------------------
(1)京都国際シンポジウム、ワークショップ閉会
11月9日〜13日にかけて開催された京都国際シンポジウムが無事
閉会しました。開催期間中、約350名の方がシンポジウムとワークシ
ョップに参加してくださり盛会のうちに終了しました。ポスター発表の
会場にはたくさんの方々が集まり、ポスターコアタイム(1時間)をす
ぎても発表者と聴衆のあいだで議論が続いていました。また、ポスター
会場では、液晶プロジェクターを使った写真展がありました(SW7)。
 映像ワークショップ(SW5)は、今年出版した書籍(以下のサイト
をご覧ください)を販売し、これまでの成果を発表していました。最終
日に開催されたバナナ・エンセーテワークショップ(SW8)では、遺
伝学的な研究をおこなう参加者と人類学的な研究を中心におこなう参加
者が一同にあつまり午前10時ころから午後5時まで活発な議論が続き
ました。休憩室に、バナナの試食(5〜6種類)コーナーやエンセーテ
のクイズや糸作り、バナナの葉を使った土産物などが展示され、発表だ
けではなく休憩室も盛況でした。
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/ISBN4-88008-358-5-EizoMin.html
>『見る、撮る、魅せるアジア・アフリカ! 映像人類学の新地平』
(映像作品DVD付:7作品=約60分)

(2)エチオピアから客員教授とイタリアから研究員来日
2006年11月1日から2007年3月末まで、アジスアベバ大学
理学部からエンダシャウ先生が客員教授としてアジア・アフリカ地域研
究研究科にいらしています。先生は、エチオピアの栽培植物なかでも、
エチオピア起源の栽培植物エンセーテを中心に分子生物学的な研究をす
すめていらっしゃいます。
 2006年10月中ごろからは、イタリアからシモーネ・タルシタニ
さんが日本学術振興会・外国人特別研究員(PD)としてアジア・アフ
リカ地域研究研究科に在籍しています。シモーネさんは、エチオピア東
部ハラールにおける宗教音楽実践について研究されています。シモーネ
さんは2008年9月末まで在籍の予定です。

(3)エチオピアの軍事介入でソマリア暫定政府が全土ほぼ制圧
1月1日、イスラム原理主義勢力「イスラム法廷会議」が、最後の拠点
である南部の港湾都市キスマユを放棄し退去した。これによりソマリア
暫定政府は、1991年以来無政府状態であったソマリア全土をほぼ制
圧した。12月24日、エチオピアのメレス首相はテレビ演説で、ソマ
リア中南部の大半を支配する「イスラム法廷会議」と戦争状態に入った
ことを宣言。イスラム法廷会議はソマリアの暫定政府と対立しており、
エチオピア政府は暫定政府を支援している。25日には、エチオピアが
ソマリアの空港を爆撃するなど攻勢を強め、28日には、エチオピアが
ソマリアの首都モガディシュに進軍。同日、イスラム法廷会議はモガデ
シュから南部キスマユにむけて撤去し、暫定政府が首都を掌握した。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20061225STXKB000625122006.html
>メレス首相「イスラム法廷会議」と戦争状態に入ったことを宣言
http://www.mainichimsn.co.jp/kokusai/afroocea/news/20061225k0000e030014000c.html
>msnニュース(毎日):派兵明言には、エリトリアへのけん制のねらい
http://www.irinnews.org/report.asp?ReportID=56861
>イスラム法廷会議が撤退、ソマリアは混沌状態
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/world/20061228id23-yol.html
>イスラム法廷会議が撤退、ソマリア暫定政府が首都掌握
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/world/070101093340.l117uaq1.html?C=S
>イスラム法廷会議、キスマユを放棄し退去
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/world/20070102a3930.html?C=S
>ソマリア暫定政府が全土ほぼ制圧。イスラム法廷会議、ケニヤ国境方面へ逃走
-------------------------------------------------------------------------------
          ◇ 編集委員から ◇
-------------------------------------------------------------------------------
年末からエチオピアがソマリアに進軍したニュースが流れていますが、
アジスアベバは表面的にはいつもとかわりない様子です。エチオピア・
フィールド・ステーションだよりも早いもので一年がたちました。20
07年もEFSだよりをどうぞよろしくお願いします。(金子守恵)
-------------------------------------------------------------------------------
メールマガジンへのご意見・投稿はこちらまで
→Ethiopia_FS@jambo.africa.kyoto-u.ac.jp
-------------------------------------------------------------------------------
◆このメールは「まぐまぐ」のシステムを利用して配信しています。新
規登録・解約は下記ページにてお願いします。
http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/efs/j/magazine.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
エチオピアフィールドステーション・メールマガジンは、21世紀 COEプ
ログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」の活動内容
を中心にエチオピアの地域研究情報を電子メールで配信しています。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行: Ethiopia Field Station, 21st Century COE Program    
-世界を先導する総合的地域研究拠点の形成-
http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/efs/index.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright(c)2007 EFS. All Rights Reserved.