メ−ルマガジン
 

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    エチオピア・フィールド・ステーションだより      
      Ethiopia Field-Station News Letter    
    http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/efs/
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               Feb. 2007[Vol.014]         
    

            【もくじ】  

     □ フィールドたより:金子守恵
     □ EFS通信 No.14  
     (1)EFSセミナー報告     
     (2)第6回エチオピア音楽祭

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          ■ フィールドたより ■
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         「アドラヨのお父さんの死」

       金子守恵(日本学術振興会特別研究員)

2007年1月18日夕刻、エチオピア西南部、アリの人びとが暮らす
M村である人物の葬儀がおこなわれた。90歳をすぎた高齢の男性の葬
儀がおこなわれた。その男性は、近所の人たちから「アドラヨのお父さ
ん」とよばれていた。アフリカの多くの地域と同様にこの地域でも、既
婚男性に子どもがうまれると、その子の名を使って周囲からは「○○の
お父さん」とよばれるようになる。彼の長男アドラヨは、M村ではじめ
てアジスアベバ大学(エチオピアで最も入学するのが難しい大学)に進
学し、その後海外の大学院で博士号をとり、現在はアジスアベバ大学で
教鞭をとっている。

「アドラヨのお父さん」にはなかなか子どもが授からなかった。たとえ
苦労して子どもを授かったとしても、子どもは、家畜を牧草地につなぎ
にいったり、畑仕事の手伝いをするなど貴重な労働力とみなされる。近
所の人たちが「(まだ)うまれないのか?(アド・ライ・ヨー)」と冗
談まじりで彼に声をかけていたのが、ようやく生まれた長男の名前の由
来だそうだ。 

わたしは、2002年ころから「アドラヨのお父さん」に息子を学校に
行かせた経緯について話しを聞かせてもらっていた。(注1)当時、M
村には公立の学校もなかったのに、どうして息子を学校にいかせようと
思ったのか、話しはそこからはじまった。 

1950年〜60年ころ、「アドラヨのお父さん」はM村にあったエチ
オピア正教会(注2)の学校に幼い息子を入学させた。理由はひとつ「
アムハラ語(注3)をおぼえさせるため」。「アドラヨのお父さん」は、
これまでアムハラ人がアリの人びとから土地やものを搾取し、アムハラ
人のためにアリの人を強制的に労働させ、アリの人たちを馬鹿にしてき
た過去の出来事を思い出しながら、「アムハラ人が(再び)アリを支配
しないように息子を学校に行かせた」、と話してくれた。しかし、息子
がアジスアベバの学校にいくようになるとは思ってもいなかったようだ。
教会の学校のあとは、息子の人柄と周囲の人びとの支援もあって、アジ
スアベバ大学まで進学したのだと語っていた。

「アドラヨのお父さん」は、息子がアジスアベバで生活するようになっ
てから一緒に暮らすように何度も懇願されたそうだ。実際、アジスアベ
バまで何度か足を運んだそうだが、1ヶ月以上は滞在できなかったとい
っていた。エンセーテ(注4)もガビジャ(タロイモ)もないし、しば
らくいると自分のウシが心配になってしまうのだそうだ。結局「アドラ
ヨのお父さん」は自分の家で、昔からの食べ物を食べ、自分のウシを世
話しながら暮らすことを望んだ。アドラヨも父が望みどおり生活ができ
るように出来る限りのサポートをした。

「アドラヨのお父さん」はエチオピア正教会の近くに埋葬された。遺体
が埋葬された午後2時には、近隣の人たちばかりではなく遠方からもた
くさんの人が集まった。その日は市日だったが、一時マーケットから人
の姿がなくなってしまったほどだったそうだ。


注1:2002年より共同研究としておこなってきた。20年以上にわ
たってM村で調査をおこなってきた重田は、アドライ本人から学校に行
っていたころの話しをきいている。この一部は、第40回アフリカ学会
で発表した。(2003年5月31日、於島根大学)

注2:アリの人々が暮らす地域では、エチオピア正教を信仰している人
はたいていアムハラ人である。アリの人で入信している人は数少ない。

注3:エチオピア北部に暮らすアムハラ人の母語。彼らは19世紀後半
からエチオピア南部地域に支配を拡大していった。アムハラ語は、アリ
の人々にとっては支配言語といえる。

注4:バナナに姿かたちが似たバショウ科の栽培植物。野生種はアジア
・アフリカの各地に自生している。食用として栽培されているのは、エ
チオピア南部地域だけである。根茎部を蒸したり、偽茎に蓄えられたデ
ンプンを発酵させて食用にする。以下のサイトで、エンセーテについて
より詳しい情報を得ることができる。 
http://www.aaas.org/international/africa/enset/index.shtml


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          ■ EFS通信 No.14 ■
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(1)EFSセミナー報告
・とき&ところ:1月4日、EFS
・報告者:伊藤義将
・演題:エチオピア西南部熱帯高地森林域における野生コーヒーの利用
・参加者:重田眞義(ASAFAS教員)エンダシャウ・ベケレ(アジ
     スアベバ大学(AAU)教員)・ゲブレ・インティソ(AA
     U教員)・西真如(ASAFAS教員)・金子守恵(日本学
     術振興会特別研究員)

(2)第6回エチオピア音楽祭
1月9日〜17日まで、第6回エチオピア音楽祭がアジスアベバ市内の
ホテルなどで開催されました。このお祭りは、今年で設立100周年を
むかえるl'Alliance ethio-francaise が主催してきました。1月15日
には、川瀬慈さんの映像作品(ラリベロッチ)が上映されました。
>以下のサイトでプログラムをご覧になることができます。
http://www.allianceaddis.org/pages/festivalprog.htm
>l'Alliance ethio-francaiseについて(仏語)
http://www.allianceaddis.org/pages/notre_alliance.htm
>l'Alliance ethio-francaiseについて(インタビュー記事、英語)
http://www.unspecial.org/UNS638/t57.html

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          ◇ 編集委員から ◇
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エチオピア西南部のフィールドでも、マーケットでマンゴーを売り歩く
少年の姿が目につくようになりました。エチオピアにきて、マンゴーを
食べた子どもの顔が真っ赤に腫れ上がっているのを見て、マンゴーがウ
ルシ科の植物だったことを知りました(^_^;)マンゴーはインドからイ
ンドシナ半島が原産と推定されているそうで、インドでは4000年以
上前から栽培がはじまっていて、仏教の経典にもその名が見られるそう
です。(『ウィキペディア(Wikipedia)』より)(金子守恵)
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