フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年7月29日〜9月24日, 派遣国: インド
(1) 現代インドのガンディー主義的環境思想−スンダルラール・バフグナとヒマラヤの環境問題−
石坂晋哉 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: ガンディー主義,環境思想,スンダルラール・バフグナ,チプコ運動,テーリー・ダム反対運動


バフグナ夫妻

建設中のテーリー・ダム橋が半分水没している様子が見て取れます

コーサーニーの女子小・中学校クリシュナ生誕祭で披露する劇の練習をしているところ
(2) 博士論文では、現代インドのガンディー主義的環境思想について、特にヒマラヤの環境問題に取り組んでいるスンダルラール・バフグナの思想・行動に注目し、その内容と特質、今日的意義を明らかにする。
  博士論文では、まず、ガンディー主義的環境思想が出現した歴史的背景を論じる。M. K. ガンディー(1869-1948)没後のインドでは、土地問題に取り組んだヴィノーバ・バーヴェ(1895-1982)やインディラ・ガンディー政権に対抗したJ. P. ナーラーヤン(1902-79)をはじめとして多くのガンディー主義者が活躍してきたが、現在のガンディー主義者の多くは環境問題に取り組むようになってきている。他方、インドにおける環境思想史は1970年代に入って本格的に始まったといえるが、そのなかで、「ガンディー主義的改革運動家」たちは「エコロジカル・マルクス主義者」や「適正技術論者」と並んで主要な潮流のひとつを形成してきている。
  スンダルラール・バフグナ(1927-)は、北インド・ウッタラカンド地域においてヒマラヤの環境問題に取り組んでいるガンディー主義者として全世界的に知られた人物である。彼はこれまで、1973年に始まったチプコ運動(地元住民が域外の企業などによる森林伐採を<樹に抱きついて(チプコchipko)でも阻止しよう>と始めた運動)や、1990年代にピークを迎えたテーリー・ダム反対運動(発電を主目的としたテーリー・ダム(1978年着工、2003年現在未完成)について、その安全性や地元住民への補償の不十分さといった観点からその建設に反対する運動)などに、それぞれ運動の指導者として深く関わってきた。博士論文では、彼の知的遍歴を描くことで彼の思想・生き方の特質を明らかにするとともに、彼の森林保護論や、4830kmにも及んだヒマラヤ行脚、そして抗議・懺悔の意味を込めた断食などに焦点を当てることを通じて、バフグナにおけるガンディー主義的環境思想の今日的意義をも明らかにしたい。

(3) 今回の現地調査では、まず、2003年8月初旬から中旬にかけてインド・ウッタランチャル州テーリーを訪れ、テーリー・ダム反対運動の現状を調査するとともに、スンダルラール・バフグナ氏にインタビューを行った。インタビューを通じて、彼の森林保護論が、地元住民の生の基盤・シンボルとしての森林を守るべきだという考えに基づくことが明らかになった。これは、森林を単に経済的な資源として捉え「誰がどのように森林資源を管理するか」をめぐって論が展開されている他の一般的なインドの森林保護論とは根本的に異質の考え方であり、また、動植物の権利保護という点を基盤とした原生自然保護論とも大きく異なった考え方である。
  2003年8月中旬から9月中旬にかけては、ウッタラカンド地域を中心として数多くのガンディー主義者のもとを訪れ、インタビューを行うとともにその活動の一端を調査した。例えばコーサーニーでは、ガンディーの弟子であったサララ・ベーン(1892-1982)が1946年に始めた全寮制の女子小・中学校が、現在にいたるまで、地元の女性たちが尊厳を持って生きることを目指して創造的に運営され続けていることが明らかになった。ここの卒業生たちがウッタラカンド地域の環境運動の展開においてどのような役割を果たしたかなどについて、今後も調査を行っていきたいと考えている。

 
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