フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2004年1月7日〜3月30日, 派遣国: インドネシア
(1) Ethnobotany of the Penan Benalui of East Kalimantan, Indonesia
小泉都 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: Ethnobotany, Penan Benalui, Plant Use, Folk Classification, Borneo


調査村近くの森

Licuala sp.の葉で葺いた屋根の下で
(2) プナン・ブナルイは伝統的にはボルネオ島の内陸部の森林で移動生活を営む狩猟採集民だった。しかし、彼らは1960年代に定住化して、現在では村に定住して焼畑農作を行うようになっている。
  博士論文では、伝統的な生活の経験がある世代からの聞き取り調査をもとに狩猟採集民としてのプナン・ブナルイがどのように自然、とくに植物を利用及び認識しているかを具体的に記述する。その上で、これをボルネオ島の農耕民を対象として行われた先行研究と比較してかれらの間の相違点について議論する。
  また、これまでの調査からプナン・ブナルイがかなり細かく植物に名前をつけていることが分かっている。これは植物に関わる問題についての聞き取り調査に有利である。これを利用した調査を行い、個人個人の植物認識の確実性について明らかにする。どのような過程で個人が植物知識を学ぶのかについても併せて明らかにする。
  プナン・ブナルイはこの半世紀の間に急激な生活環境の変化を経験している。上の結果をもとに、プナン・ブナルイの植物についての知識が今後どのように変化していくのかについても考える。

(3) 上に挙げた目的のうちはじめの項目、プナン・ブナルイの植物利用と認識についてとくに重点的に調査を行った。一昨年の調査結果と併せてまとまったデータが集められたので、投稿論文を執筆中である。要点は、利用植物相は薬用植物や葉食植物などについては同地域の農耕民より限定的であること、利用価値の低い植物でも名前をつけていないことはほとんどないこと、植物名には二次語彙を多用していることなどである。利用植物については「狩猟採集民は農耕民より限られた生物相しか利用しない」という一般的な経験則に合致しているが、植物名については「狩猟採集民は生物名に二次語彙をあまり使わない」という経験則に合わない。後者の乖離については、プナンは農耕民から言語的な影響を受けやすい立場にあることと、ボルネオの森林植物がひとつの属内で多くの種が分化しているというかたちの多様性を持っていることによりプナンが二次語彙を発達させたためにおこったと私は推測している。また、狩猟採集民が大雑把なグループごとにしか生物に名前をつけていない(と信じられていた)ことから狩猟採集民が農耕民に比べ生物を詳しく観察していないという仮説もあるが、このプナン・ブナルイのケースでは狩猟採集民が自然をよく観察していることも明らかになった。

 
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