フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年10月25日〜2004年3月10日, 派遣国: ボツワナ
(1) 狩猟採集民サンにおける再定住にともなう社会変容に関する研究
丸山淳子 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 再定住,生活の再編成,変容過程,ポスト狩猟採集社会


再定住地には、ツワナ由来の集会所がもうけられ、村議会や裁判がおこなわれる。この日コエンシャケネでは、居酒屋の騒音問題が話し合われていた。

コバ(||Koba)は、このKhwebe hillからソメロに再定住した。ここでは年中さまざまな木の実が手に入り、丘の頂上付近には湧き水もある。
(2) 狩猟採集民サンの約半数が生活するボツワナ共和国では、この数十年間に、住民の生活向上や自然・鉱物資源の保護を目的として各地で再定住(resettlement)をともなう開発政策が実施されてきた。この政策の主な対象者は、遠隔地や国立公園内に居住していたサンであった。その結果、現在ではボツワナのサンの多くが、政府が設けた「遠隔居住者再定住地(以下再定住地)」に居住している。 再定住地には学校、病院、井戸などが建設され、住民には年金や食糧配給、労働機会などが与えられた。その一方で再定住地へ移住した住民は、従来の生活域や自然資源へのアクセスが困難になったり、異なる地域の出身者と混住することを余儀なくされている。本研究は、とくにセントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブのグイ/ガナ・サンを対象にしておこわなれた1997年の再定住計画に焦点を当て、再定住によって生じた新しい生態・社会環境に対するサンの対処のあり方と、移住先での生活の再構築の過程を明らかにすることをとおして、サン社会の特質と、その変容過程を解明することを目的とする。

(3)  今回の現地調査は、1. セントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブからの移住先の再定住地であるコエンシャケネ、2. コエンシャケネと同様にグイ/ガナ・サンが居住する他の再定住地ソメロとケケニェにおいて行った。1. は再定住後3年目に実施した調査をもとに定点的な調査を続けることで、再定住後の生活の再編過程を長期的な視点で解明することを目的とした。2. は、グイ/ガナ・サンの再定住をめぐるこの数十年の歴史を再構成し、コエンシャケネの事例と併せて、再定住以前の生活環境、再定住時期、再定住地の生態・社会環境の違いなどが変容過程に与える影響を考察することを目指した。調査の結果は以下のとおりである。

  1. 派遣者のこれまでの研究から、賃労働が主要な経済活動となる再定住地に対して、その周囲の原野に拓かれた居住地では、狩猟採集、牧畜、農耕が主要な生業となり、両者の間には交換関係や頻繁な移住がみられることがわかっている。今回は、前回の調査を継続、発展させるために、住民間の食物分配や再定住地内外の居住状況の変遷に関するデータを収集した。その結果、調査対象世帯の分配相手は3年前と大きな変化はなく、住民間の社会関係の親疎は長期的に安定していることが明らかになった。また原野に居住する人々の顔ぶれが固定化しつつあり、それぞれの生業活動に特化する傾向がみられた。また村議会議員、チーフの選出過程などに関する事例収集とその歴史的背景の聞き取りを行い、コエンシャケネの政治的過程において、出身地域や近隣の農牧民ツワナやカラハリとの系譜関係が重要視されつつあることがわかった。こうしたことから、従来は比較的均質な生活をおくってきたサンのあいだで差異化が進行していることが指摘できる。
  2. ソメロはセントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブの北部、ケケニェは南部に位置し、コエンシャケネ住民の多くが再定住以前に住んでいたカデ地域からは、それぞれ250キロメートル以上離れている。住民の移住過程に関する聞き取りから、これらの再定住地に住むグイ/ガナ・サンは、1930から40年代にリザーブの外側にあるツワナやカラハリの集落やキャトルポストの周辺へ移住し、近年再定住地に移住したこと、コエンシャケネの住民と近い親族関係を持っていることなどが明らかになった。両者とも、再定住地では他地域出身のサンと混住しているが、居住パターンや集落内の政治的過程に関する調査からは、互いに同化しあうことはなく、依然として再定住以前から続く関係が非常に重要視されていることがわかった。またソメロにおいては、コバ(||koba)、ナベコー(!nabe-kx’oo)、タバ(≠haba)といった、これまであまり調査報告のない言語集団(ただしグイ/ガナ・サンに近縁)が居住しており、それぞれの再定住以前の生活圏や移住過程、他の言語集団との接触状況などの情報もあわせて収集した。

  今後はこれらの調査結果についてさらに検討し、サン社会が再定住のインパクトによって、既存の文化・社会を再編しつつ、ポスト狩猟採集社会へ移行する過程を考察する。

 
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