フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年9月22日〜12月19日, 派遣国: エチオピア
(1) 近代エチオピア社会における在来組織の活動と公共圏の形成:グラゲ道路建設協会と葬儀講の研究
西真如 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 公共圏,在来組織,市民社会,開発,NGO


グラゲ道路建設協会の本部として使われていた建物

協会によって建設された道路と橋

氏族委員会のひとつによって建設されたアガンナ高等学校
(2) 20世紀のエチオピア社会のなかで形成された在来組織の活動を分析することによって、生活領域における公共圏が形成され、維持される仕組みを捉えようとする。具体的には、1961年に結成されたグラゲ道路建設協会の事例を中心に据え、エチオピアでもっとも広く普及している在来組織であるウドゥル(葬儀講)や、近年急速に成長してきたNGOとの比較のなかで、地域社会の活動を分析してゆく。なお本研究においては、現代のエチオピア社会を国家と民族(あるいは西欧的近代とアフリカ的伝統)との対立の場として捉えるのではなく、地域社会の活動と、国家システムの運動との交渉をとおして形成される諸制度を、歴史-社会的な視点から理解しようと試みる。

(3) 1961年に結成されたグラゲ道路建設協会の成立に関わる歴史的背景や、政府との関係について、聞き取り調査及び文献の収集をおこなった。また同協会の組織およびリーダーシップに関する聞き取り調査をおこなった。さらに在来組織の活動と比較するため、開発NGOの活動の動向についても調査をおこなった。これら調査の結果、以下のような諸点が明らかになった。

  1. グラゲ道路建設協会は、農村からアジスアベバに移住し、商人あるいは官僚として成功を収めた人びとによって設立された。これら移住者は、資金の提供、政府への働きかけ、住民への協力の呼びかけなど多くの面で活動を主導した。アジスアベバの中央官僚組織は、技術面および資金面で同協会を支援したが、他方でアムハラ封建貴族は、同協会の活動を阻害する企てをたびたびおこなった。またグラゲ氏族社会の伝統的リーダーは、同協会の活動を阻害した事例と、支援した事例がある。
  2. 同協会は、成文化された規則にもとづく近代的な組織をもっている。ただし協会本体のほかに、氏族別に結成された7つの委員会があり、さらにそれぞれの委員会と関係の深い葬儀講が、多数存在する。活動の初期には、協会が道路の建設や維持管理に責任を負うのに対して、各委員会は住民からの資金提供を募るなど、おおむね明確な役割分担が見られた。
  3. 近年、同協会はエチオピア国内で活動するNGOとのネットワーキングにも関心を示しており、海外で開発分野の教育を受けたプロジェクトマネージャーを雇用するなど、典型的なNGOに近い形態をとり始めている。これに対して各委員会と葬儀講は、無報酬の役員によって運営される、典型的な在来組織の形を保っている。
 以上のような考察を土台として、今後は同協会本体と委員会、葬儀講それぞれの形態及び活動の変化に留意しながら、協会活動の調査、分析をおこなってゆきたい。

 
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