フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年10月5日〜2004年7月25日, 派遣国: タンザニア
(1) タンザニアにおける経済自由化以降の都市零細商業部門の変容に関する研究
小川さやか (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 取引慣行, 衣料品流通, 商業ネットワーク, 地域の社会経済変容, ムワンザ


定期市での販売活動の様子

古着常設市場の露店での販売の様子
(2) 本研究は、地域の経済活動とそれを支える規範が、グローバルな市場の変化やローカルな社会経済変化の影響を受けながら、その影響を解釈した人々の実践を通じて、どのように存続あるいは変化してきたのかを明らかにすることを目的とする。その事例として、本研究では、タンザニアの地方拠点都市ムワンザ市の古着流通を取り上げる。
  ムワンザ市の古着流通では、資本をもつ中間卸売商と資本をもたない小売商の間で、互酬的な規範を伴い、水平的な社会関係を基盤とした信用取引が行われている。この取引慣行には、信用の不履行が起こった場合でもその負の影響を軽減するような社会的連帯や「ウジャンジャ(狡猾さ)」を重視するような都市的な規範がみられる。現在、古着商人たちは、この取引慣行を基礎として古着を効率的に流通させるシステムを発達させている。博士論文では、このような取引慣行をふくむ現行の古着流通システムが、国際的な古着市場の動向やムワンザ市の商業部門に対する政策的変化などの影響を受けながら、商人たちの経済実践を通して、どのように形作られてきたのかを明らかにすることを目的とする。それを通じて、タンザニア都市商業部門のネットワーク形成のあり方や企業家精神について明らかにしていきたい。

(3)  現地調査は、2003年10月7日から2004年7月25日までの期間、ムワンザ州の古着常設市場、定期市にて行った。調査では、1. 1970年代後半から現在までのムワンザ市の社会経済的、政策的変化に対応して、商人たちがどのような商慣行を行ってきたのか、2. 都市的な生活規範や互酬的なやりとりをふくむ、取引関係はどのような過程を経て成立したのかについて明らかにすることを目的とした。

  1. 計272人の商人に対して過去の経済活動に関する聞き取り調査を行った。その結果、商人たちは、似通った特定の時期に商慣行を変化させていることが明らかとなった。商慣行の変化とムワンザ市の社会経済的変化を照らし合わせて、4つの時期区分を行なった。すなわち、(1) 密輸交易期(1970年代後半〜1985年)、(2)経済自由化以降から政権交代までの時期(1986年〜1995年)、(3)インフォーマルセクター商業部門振興策および関税政策が整う時期(1996年〜2003年)、(4)ムワンザ市都市計画の施行と輸入衣料品市場が拡大する時期(2003年10月〜)である。各時代の商慣行の特徴を検討した結果、互酬的な規範を伴う取引慣行は、もともとムワンザ市の商人たちが「慣習的」に行ってきた取引慣行ではなく、ローカルな社会経済変化に応じて、新しく創られてきたものであることが明らかになりつつある。
  2. 多くの商人たちは、商売のやり方を変えた直接的な理由を、ムワンザ市の社会経済的変化ではなく、取引相手や自分を取り巻く他の商人たちとの関係の変化から説明した。関係の変化として商人たちがとりわけ引き合いに出したのは、参入時期によって決められる「世代」が交代するという変化であった。そこで、聞き取り調査をした商人を5つの世代に分類することを試みた。その結果、(1)各世代の組み合わせパターンによって取引相手の選び方や取引方法に違いが見られること、また(2)「ウジャンジャ」という都市的な生活規範は、世代によって異なった文脈で共有されていることが明らかになった。つまり、中間卸売商―小売商に代表されるような異なる世代に属する商人どうしが、それぞれの世代にとって望ましいと考える生活規範に従って、駆け引きを繰り返すことを通じて、その時期ごとの取引慣行が形作られる。前時期の取引慣行を引き継いだ世代は、新たに参入してくる他世代と駆け引きを繰り返す中で、前時期の取引慣行を修正し、新しい取引慣行を作り出していく。現行の取引慣行は、このような過程を経て成立したものと推定された。
  今後は、以上の商慣行の変化を促した政策や経済変化などの外的要因と、世代交代といった内的要因の2点を総合的に考察し、都市零細商業部門のネットワーク形成のあり方や企業家精神について議論していきたい。

 
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