報告
渡航期間: 2003年12月17日〜2004年1月3日    派遣国: エジプト
  出張目的
  タリーカ(スーフィー教団)の宗教実践と理論の相互関係に関する調査およびオンサイト・エデュケーション
  東長靖 (大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・東南アジア地域研究専攻)

 

  活動記録
  12月17日(水)〜18日(木)
  • 京都 − イスタンブル
      12月18日(木)
  • イスラーム研究センターにて文献調査
      12月19日(金)
  • イスタンブル − カイロ
      12月20日(土)〜22日(月)
  • 国立図書館およびアズハル図書館にて写本調査
      12月23日(火)〜24日(水)
  • アラブ連盟写本研究所にて写本調査、カイロ・フィールド・ステーションにてオンサイト・エデュケーション
      12月25日(木)
  • カイロ・アメリカ大学にてオンサイト・エデュケーションとインタビュー、またティジャーニー教団員およびシャーズィリー教団員宅にてインタビュー
      12月26日(金)
  • カイロ − イスタンブル:イスラーム研究センターにて文献調査
      12月27日(土)
  • ウルダー大学との将来の研究・教育提携に向けた話し合い
      12月28日(日)〜29日(月)
  • マルマラ大学神学部にて研究・教育提携ならびにFS開設のための話し合い
      12月30日(火)〜1月1日(木)
  • アンカラ大学との研究・教育連携ならびにFS開設のための話し合い
    ムフイッディーン・モスクにて臨地調査
      1月2日(金)
  • チャナッカレ大学教員とのインタビュー
      1月3日(土)
  • イスラーム研究センターにて文献調査、ウズベク修道場(テッケ)にて臨地調査

     

      結果と進捗状況
     
    (1)フィールド・ステーションの運営
      来年度に予定されている、トルコ・シリアを中心とした西アジアにおけるフィールド・ステーション開設に向け、トルコのアンカラ大学およびマルマラ大学との話し合いを行った。また、現在開設しているカイロ・フィールド・ステーションの移転に伴う事務手続きを行った。
    (2)オンサイト・エデュケーション
      21世紀COEプログラムの資金で、ASAFASの大学院生、横田貴之さん(平成12年度入学)と新井一寛さん(平成13年度入学)をカイロ・フィールド・ステーションに派遣中である。横田さんは草の根イスラーム復興、新井さんはスーフィー教団の調査を精力的に行っていることを確認した。Prof. Mark Sedgwick, Prof. Hoda Lutfi(ともにカイロ・アメリカ大学教員)へのインタビューおよびスーフィー教団員へのインタビューなどを、両名とともに行った。また、フィールド・ステーションにおいて、アラビア語エジプト方言およびアラビア語古典文献についての小研究会を開催するとともに、両名に対する現地チュートリアルを行った。
    (3)国際交流
      トルコにおいては、アンカラ大学、マルマラ大学、ウルダー大学、チャナッカレ大学、エジプトにおいては、アメリカ大学との連携を推進した。このうち、マルマラ大学、カイロ・アメリカ大学の教員各1名については、3月に日本中東学会主催で開催する国際ワークショップに招待することにし、共同研究の構築を進めつつある。アンカラ大学、マルマラ大学とは、フィールド・ステーション設置の協議を推進中である。また、ウルダー大学からも、事前に寄贈した『日本中東学会年報』所収諸論文に対する賛辞とともに、研究・教育の提携の希望が寄せられ、話し合いを行った。カイロ・フィールド・ステーションのカウンターパートであるカイロ大学政経学部アジア研究センターとの協力関係も良好に継続している。
    (4)個人研究
      今回の出張目的である「タリーカ(スーフィー教団)の宗教実践と理論の相互関係に関する調査」は、文献調査と臨地調査(インタビューを含む)から成り立っている。トルコにおいては、イスラーム研究センターにおいて文献調査を、ムフイッディーン・モスクおよびウズベク修行場において臨地調査を行い、エジプトにおいては、国立図書館、アズハル図書館、アラブ連盟写本研究所において文献調査を、ティジャーニー・シャーズィリー各教団員宅において臨地調査を実施した。

     

      今後の課題
        西アジアにおけるフィールド・ステーション事業は軌道に乗り、エジプト一国を対象としていたこれまでの2年間の成果をもとに、アラブ世界・トルコ世界・イラン世界を包括する西アジア・フィールド・ステーションに拡大継承することとした。今回の出張は、このうちとくにアラブ世界とトルコ世界に焦点を当て、地固めの作業を行った。両地域とも、日本の研究状況に対する積極的な関心を持っていることが印象的であった。カイロ・アメリカ大学のマーク・セドウィック教授が、欧米人ムスリム知識人の著作の日本語訳およびそれが日本文化の中でもつ意義について、報告者に熱っぽく質問したことは、その一例である。基本的に、日本におけるイスラーム・西アジア研究のレベルは世界的に認知されつつあると思われるが、トルコ・エジプト・レバノンにおいては十分な人的ネットワークをすでに構築しているものの、イランおよびその他のアラブ諸国との協力関係構築は、新しく開設される西アジア・フィールド・ステーションが担うべき仕事として残されている。

     

     
    「アズハル図書館」
    近年新装なったエジプトのアズハル図書館。アズハル・モスクに付設されていた旧図書館は閉鎖され、近くのダッラーサ地区に大きな図書館が作られた。写本の検索もコンピュータで行うシステムに変わっていた。
      「参詣の心得」
    トルコのムフイッディーン・モスクで、聖者の墓の傍に貼ってあった参詣の心得。願掛けをすることや、蝋燭を点すことなどが、「ビドア(正しいイスラームからの逸脱)」や迷信として禁じられていることが分かる。
     
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