(3) 現地調査は、2004年8月〜2005年4月まで、ナミビア北中部の中心都市オシャカティから10km西にあるウウクワングラ村で実施した。今回の調査では、オヴァンボの食における昆虫利用とその変遷に注目した。調査は昆虫利用の観察と30世帯の主婦への聞き取りによって行い、その結果、1)植生や社会・経済状況の変容にともなう利用種や採集方法の変化と、2)現代における入手方法が明らかになった。昆虫はエサとなる植物が限定されている場合が多いため、地域の植生によって発生種が大きく変わる。調査地周辺には、マメ科のモパネ(Colophospermum mopane)が優占するモパネ帯が広がっていたが、都市近郊ではブッシュ・エンクローチメントと呼ばれる植生変化が進行し、その結果、アカシア(Acacia arenaria)が優占するパッチ状のアカシア群落が広がっている。調査村はこのアカシア群落に位置している。
調査村では、住民はイモムシ類を中心にコガネムシの幼虫、カメムシなど11種類の昆虫を食用としていた。かつて、この村で最も多く利用されていたのは、アカシアを食草とするオカナンゴレと呼ばれるドクガの幼虫であった。このイモムシはアカシアの木に発生し、雨季に各世帯で家の周囲にあるアカシアの木から採集される。この虫に対する味の評価は高く、肉と味を比較した際に、「肉よりもうまい」という人も多かった。しかし、アカシアの減少などによって1980年代後半から発生が見られなくなった。
その一方で、Cattle Postという、村から数十km離れた放牧地をモパネ帯に持つ人が1980 年頃から増えはじめ、家畜の世話のついでにモパネワームと呼ばれるイモムシを採集する人が増えている。また調査村を含む周辺村落から南へ移住する人が1970年頃から増加し、モパネ帯にいくつかの新村が形成され、新村の住民がモパネワームなどを贈与するようになった。その結果、村での昆虫の入手機会が増大した。このように、都市近郊に住むオヴァンボの昆虫食は、村周辺での採集が難しくなる一方で、地域的な拡大によって新たな昆虫の入手機会が提供され、現代においても利用が続けられている。
今後の調査では、新村と旧村の間での自然資源の贈与と交換の実態とその意味について明らかにし、植生環境が大きく変化する都市近郊の農村で、住民が自然資源の利用をどのように維持しているか把握することをとおし、人−自然関係の現代的な様相を考察したい。