フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2004年8月1日〜2005年4月1日, 派遣国: ナミビア
(1) ナミビア北部における地域動態と自然資源利用の変遷に関する研究
藤岡悠一郎 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: モパネ帯,自然資源の利用,昆虫食,植生変化,地域動態


まるまる太ったモパネワームの1種

コガネムシの幼虫を調理する少年

乾季用に保存されているイモムシ(ヤママユガの幼虫)。
(2)  ナミビア北部に暮らすバントゥ系の農牧民オヴァンボは、農業や牧畜などの生業活動や物質文化を通し、様々な自然資源を利用して暮らしている。しかし、国の人口の半数近くが集中するナミビア北中部では、都市近郊を中心として植生変化の急速な進行や社会・経済状況の変容にともない、彼らの自然資源の利用は変化しつつある。本研究では、ナミビア北部の都市近郊に暮らすオヴァンボを対象とし、彼らの様々な自然資源利用活動が、自然環境の変化や社会・経済的な変容に伴う地域の動態の中でどのように変化し、現在行われているかを明らかにすることを目的とする。

(3) 現地調査は、2004年8月〜2005年4月まで、ナミビア北中部の中心都市オシャカティから10km西にあるウウクワングラ村で実施した。今回の調査では、オヴァンボの食における昆虫利用とその変遷に注目した。調査は昆虫利用の観察と30世帯の主婦への聞き取りによって行い、その結果、1)植生や社会・経済状況の変容にともなう利用種や採集方法の変化と、2)現代における入手方法が明らかになった。昆虫はエサとなる植物が限定されている場合が多いため、地域の植生によって発生種が大きく変わる。調査地周辺には、マメ科のモパネ(Colophospermum mopane)が優占するモパネ帯が広がっていたが、都市近郊ではブッシュ・エンクローチメントと呼ばれる植生変化が進行し、その結果、アカシア(Acacia arenaria)が優占するパッチ状のアカシア群落が広がっている。調査村はこのアカシア群落に位置している。
  調査村では、住民はイモムシ類を中心にコガネムシの幼虫、カメムシなど11種類の昆虫を食用としていた。かつて、この村で最も多く利用されていたのは、アカシアを食草とするオカナンゴレと呼ばれるドクガの幼虫であった。このイモムシはアカシアの木に発生し、雨季に各世帯で家の周囲にあるアカシアの木から採集される。この虫に対する味の評価は高く、肉と味を比較した際に、「肉よりもうまい」という人も多かった。しかし、アカシアの減少などによって1980年代後半から発生が見られなくなった。
  その一方で、Cattle Postという、村から数十km離れた放牧地をモパネ帯に持つ人が1980 年頃から増えはじめ、家畜の世話のついでにモパネワームと呼ばれるイモムシを採集する人が増えている。また調査村を含む周辺村落から南へ移住する人が1970年頃から増加し、モパネ帯にいくつかの新村が形成され、新村の住民がモパネワームなどを贈与するようになった。その結果、村での昆虫の入手機会が増大した。このように、都市近郊に住むオヴァンボの昆虫食は、村周辺での採集が難しくなる一方で、地域的な拡大によって新たな昆虫の入手機会が提供され、現代においても利用が続けられている。
  今後の調査では、新村と旧村の間での自然資源の贈与と交換の実態とその意味について明らかにし、植生環境が大きく変化する都市近郊の農村で、住民が自然資源の利用をどのように維持しているか把握することをとおし、人−自然関係の現代的な様相を考察したい。

 
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