フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
<< 平成16年度 フィールドワーク報告へ戻る
渡航期間: 2004年5月19日〜12月12日, 派遣国: ブルキナファソ
(1) サヘル地域における農牧民の生計維持機構 ―ブルキナファソ北東部T村の事例から―
石本雄大 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: サヘル地域,多角的な生業経営,ケル・タマシェク,危機管理,虫害


遠望写真:トウジンビエの穂や葉に群がる砂漠バッタ

拡大写真:砂漠バッタの拡大写真
(2) サヘル地域はサハラ砂漠南縁部と接し、東西に帯状に広がる。年間降水量は150−500mm程度と極めて少なく、降雨は非常に不安定で、降水量・降雨パターンは年ごとに大きく変動する。このような気候条件下にあるサヘルでは、最も耐乾性が高い作物であるトウジンビエを栽培する上で必要な年間降水量300mmを下回ることも稀ではない。
  本研究の目的は、サヘル地域に暮らす人々が、こうした農耕には極めて厳しい気候条件をいかに克服し、生計を維持しているのかを解明することにある。具体的には、ブルキナファソ北東部の農牧民ケル・タマシェクのT村を事例として、現地調査をすすめている。
  T村では、農耕と家畜飼養の他に採集活動が行われる一方で、現金獲得のために村外に出かける出稼ぎ労働も行われている。これらの活動は、核家族から拡大家族までと、様々な規模の居住集団を単位として行われ、また、消費もその居住集団を単位として行われている。

(3) 現地調査は2004年5月19日から2004年12月12日までの期間、ブルキナファソ北東部のウダラン県T村で行った。2004年、ブルキナファソのサヘル地域には、農作物の収穫直前に砂漠バッタの大群が何度も襲来した。その結果、T村では農作物が甚大な被害を受けた。そこで、その被害状況と、被害後2ヵ月半という次の農作物収穫までの初期段階における食料確保の方法について調査を行った。

  1. これまで継続して調査を行ってきた6筆の耕地について2004年雨季作のトウジンビエの収穫量を調べ、2002年、2003年の収穫量の調査結果と比較した。その結果、各耕地の2004年の収穫量は、前2カ年の平均の0%、10.6%、10.9%、11.0%、11.5%、13.4%にしかならず、この年の収穫が壊滅的な被害を受けていたことが明らかになった。
  2. 深刻な虫害にあい、人々は農耕以外の方法によって食料確保をより積極的に行う必要があった。このため農民たちが取った行動は、採集による食料確保と、家畜の売却や出稼ぎによる現金収入に依存した食料確保であった。
      エネルギー源となる食材の採集には、イネ科草本種子の採集と、Nymphaea sp.の塊茎の採集とがある。イネ科草本種子の採集は毎年行われる。砂漠バッタが到来した2004年にも行われ、種子の登熟期が農作物に比べ早いために虫害を受けておらず、採集量への負の影響は全くなかった。Nymphaea sp.の塊茎は家畜飼料としても用いられる。本年は牧草の生育が思わしくなかったことと相まって、Nymphaea sp.の塊茎の採集は非常に積極的に行われた。
      家畜の売却は主として小家畜の売却が中心であった。ヤギ・ヒツジの売却で得た現金で、彼らは食料を購入した。一方出稼ぎには、近隣の金山で行われる日雇いのものと、隣国の都市で半年から1年の長期間に渡って行われるものとがある。食料購入は例年も行われているが、2004-2005年の農閑期には出稼ぎ収入に対する依存度合いが極めて高くなっていた。
今後は上記の結果を踏まえ、サヘル地域に暮らす農牧民ケル・タマシェクによる虫害などの自然災害に対する危機管理のメカニズムについて分析する予定である。

 
21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」 HOME