フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2005年1月15日〜2月15日, 派遣国: タンザニア
(1) タンザニア南部高地における在来農業の展開に関する農業生態学的研究
近藤史 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 東アフリカ,在来農業,生業の変容,谷地耕作,アグロフォレストリー


機械製材用に伐採された丸太

ディーゼル式製材機械による製材

木挽きによる製材
(2) 東アフリカ・タンザニア南部高地に暮らす農耕民ベナは、近年の社会的・経済的変化に対応し、在来農業のなかで新しい農法を創出してきた。 本研究は、新たに創出された農法について、創出過程、生態系への影響、持続性などを農業生態学的に解析し、同時に、それがベナ社会へ与える社会的・経済的影響について検討することを目的とする。
  ベナは、雨期には斜面地を、乾期には谷地を利用する独自の在来農業を発達させ、従来、その両方で焼畑農耕をおこなってきた。しかし現在、斜面地では、成長の早い外来樹種を導入して造林と焼畑を複合したアグロフォレストリーをおこない、谷地では、排水の強化による冠水地の耕地化と、化学肥料の導入による連作への試みに成功している。ベナは在来農業を営むなかで、農法を自ら革新することで人口圧の高まりによる休閑地不足を解消するとともに、現金収入の道をひらき、社会や経済の変化に対応している。こうした在来農業の動態を捉えることは、「伝統的な」在来農業への固執や近代農業の押し付けとは異なる、アフリカ農業の新たな展開・発展の可能性を模索するうえで意義があると考える。

(3)  2005年1月15日から24日までダルエスサラームにおいて資料収集をおこなった後、1月25日から2月15日までタンザニア南部のイリンガ州ンジョンベ県キファニャ村においてアグロフォレストリーに関する現地調査をおこなった。当地のアグロフォレストリーで造林される薪炭用のブラックワットル、および製材用のマツは、いずれも種子が野火などで加熱されると発芽するという特性をもつ。その林を伐採・利用した跡地に焼畑が造成され、火入れによって林の天然更新をはかると同時に、造林初期の数年間に幼樹間で作物が栽培される。今回の調査では、1.木材利用と植林、そして焼畑の歴史的な関わりについて聞き取り調査をおこない、2.ブラックワットル林およびマツ林の成熟と、その後の焼畑の造成にともなう土壌養分の経年変化を分析することを目的として、土壌試料を採取した。

  1. 2000年の調査当時には、焼畑はブラックワットル林の伐採跡地に造成されるのが主であった。ところが、今回の調査では焼畑の大半がマツ林の伐採跡地に造成されていた。この変化には、木材の販売を目的として1980年代以降に積極的に植林されるようになったマツの成熟と、従来の木挽きによる製材から2001年に導入されたエンジン付き機械による製材へという技術の変化、およびそれにともなう製材面積の拡大が大きく影響していることが判明した。
  2. 持ち帰った土壌の分析から、現段階では、マツの植林によって林床の土壌は著しく酸性化すること、そしてその後の焼畑により土壌酸性が矯正されることが明らかになっている。今後、土壌の理化学性についてさらなる分析を加える予定である。
  上記の結果をふまえて造林型焼畑の持続性を多角的に検討する。同時に、造林型焼畑の展開と農村社会の関わりについて検討していきたい。

 
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