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近年タンザニアでは、国際的な援助の潮流を受けて農民グループを対象に融資を実施するマイクロ・ファイナンス事業が盛んになりつつあり、県政府も同様の政策を推進している。今回の調査では、調査村において融資を求める農民グループが多数組織されていることをふまえて、マイクロ・ファイナンス事業と農民グループ活動との関係を調査した。調査は2004年10月16日〜12月16日の二ヵ月間、ムビンガ県キタンダ村においておこなった。その結果、以下の諸点が明らかになった。
- ムビンガ県は国内でも有数のコーヒー生産地である。マテンゴ社会において、コーヒーからの収入は大金をもたらすが、保管方法がないために盗難にも遭いやすく、かつ他人から無心されることが多い。そのためこのような種類のカネはHela ya msimu(季節のカネ)と呼ばれ、一時に消費されるが、これは彼らにとってKitu cha maana(意味のあるモノ:家畜、トタン、車、製粉機等)を購入するために重要なものであると位置づけられている。一方、塩や石鹸などの生活用品を購入するための日常の安定的な収入はHela ya haraka(急ぎのカネ)と言われ、食用作物(トウモロコシ、インゲンマメ、野菜類)のように比較的短期間で利益が得られる作物を栽培・販売することで手にしている。
- ムビンガ県では1990年代初頭よりマイクロ・ファイナンス事業が援助機関によって本格的に導入された。人々が融資を得る方法は大別して三つあり、ひとつは 1) SACCOs(貯蓄信用組合)に出資金を払って所属し、個人的に融資を得るものと、2) 貯蓄以外の諸活動を実践する農民グループを組織し、県政府や銀行などから借入するもの、そして 3) 個人的に銀行から借入するものとがある。これらすべてにおいて融資の使途に関する特別な規定はないが、担保や保証人が必要とされる。
調査村においては、経済的に余裕のある個人は 1) の貯蓄信用組合に加入していた。これまで21名が平均2回、金額にして73,780タンザニア・シリングの融資を受けている。その使途内訳の61%が農業に関連し、うち52%がコーヒー、食用作物栽培へと農業投入材・アルバイト雇用のかたちで投資されていることが明らかになった。
上記のような経済的余裕がない人々は 2) の農民グループへと参加する。グループは融資をもとに食用作物の共同耕作等によって資金を拡大し、メンバー個人へと利益を還元する。そしてメンバー個人はその利益をコーヒー栽培および食用作物栽培へと投資することを目指していることが明らかとなった。
また、2001年にはムビンガ・コミュニティ銀行が設立され、人々が融資を受ける機会は増加しつつある。このことがマテンゴの生業活動と農民グループ活動にどのような影響を与えるかを、今後の課題のひとつとして検討したい。