フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2005年1月19日〜3月31日, 派遣国: タンザニア
(1) タンザニア都市零細商人の企業家精神と商業ネットワークに関する経済人類学的研究
小川さやか (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 共同性の創出,行動規範,社会経済変容,古着流通,ムアンザ


梱の輸入量・価格は、インド人卸売商の裁量で急変する

新品の衣料品市場が拡大し、古着との競争が高まった
(2) 本研究は、アフリカ都市零細商人の経済活動にみられる独自の行動規範や共同性の創出過程に注目することにより、都市経済活動の変化に関与する文化/社会的ファクターの共時的・通時的解析を行うことを目的としている。
  従来の都市研究において、都市零細商人の主体は、資本や技能をもたない貧しい出稼ぎ民であること、そのため彼らの経済活動には、慣習的/伝統的な互酬的規範をともなう社会関係が機能していることが指摘されてきた。この主張の妥当性を検証するために派遣者はこれまで、タンザニア北部都市ムワンザ市で、古着商人たちの経済活動を事例に調査を行ってきた。その結果、古着商人の商慣行は、資本主義的な利潤の極大化とそれとは相反する相互扶助の規範的な要請とのあいだの微妙なバランスのうえに成立しており、確かに彼らの商慣行は、「伝統的」規範ときわめて類似した側面をもつことが明らかとなった。しかし一方で、彼らの商慣行には都市生活における行動規範や都市で築かれた新たな共同性も重要な役割を担っており、商売における日常的な交渉を通じて、新たに創造されていく側面も色濃く有していた。都市零細商人たちの商慣行は、都市化、国家開発計画や地方条例の変化、国際的な衣料品市場の動態と関係しながら日々変化してきたものであると思われる。
  そこで博士論文では第一に、近年の政策・社会・経済的な変化のなかで、古着商人たちがユニークな商慣行を生み出し、独自の共同性を築き上げてきた過程に、どのような文化的・社会的要因が作用していたのかを明らかにすることを目的とする。そして第二に、他の商品を扱う都市零細商人の商慣行との比較・分析を行う。以上2点を総合して、都市零細商人の起業家精神と社会ネットワークの特質について論じる。

(3)  本派遣では、古着商人の商慣行にみられる文化/社会的ファクターの通時的解析を目的として、2005年1月19日から3月31日までの期間、地方都市ムワンザ市にて現地調査を行った。

  1. 商人300人に対する商売歴の調査および公文書資料館・大学等での文献資料の収集・分析にもとづいて、植民地期の終わりから現在までの商慣行の変化について検討した。その結果、商慣行の変化は、どのような関係(親族・同郷者・エスニックグループ、商売能力の高さ)を基盤に商売を行うか、信用取引を行うかどうかによって、5つの時期に区分しうることが明らかになった。
  2. 各時期の政策や社会経済状況の変化にかんする文献資料の分析から、商慣行の変化を促した要因は、古着の入手可能性や価格の変化、商人人口の増減、交易圏の変化、古着流通の上位者であるインド人卸売商との取引関係の変化等が複合的に関連していることが明らかになった。また5期を通してみると、時期を飛び越えて似通った商慣行や集団形成のあり方が再現されることが観察された。このことから、商人たちは、過去の商売経験や知識を受け継ぎ、それを駆使しながら、上記の要因によってもたらされた変容に対応していることが明らかになった。
  3. 第5期の商慣行を調査したところ、異なる2つの形態の商慣行へと商人グループが分化しつつあった。商人たちを参入時期によって「世代」に区分した場合、取引を行う世代の組み合わせパターンによって選択した商慣行に特徴的な差異が認められた。第5期に限らず、実際には多様な商慣行が考案されたが、その中のひとつが各時代に支配的な商慣行の形態として定着・普及していったと推測される。
今後は、1. 以外の要因の可能性を再検討し、世代ごとの経験や知識の違い、世代間の交渉を検討することで、多様な商慣行が特定の商慣行へと収斂していくメカニズムを明らかにするとともに、その過程にどのような文化/社会的ファクターが作用していたのかを考察していきたい。

 
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