フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2005年1月15日〜2005年3月31日, 派遣国: カメルーン
(1) カメルーン東南部の熱帯雨林帯における人間活動と森林生態系との関わり
四方かがり (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 熱帯雨林,焼畑農耕,生業活動と植生変化,生態史,マクロ・システムの影響


Triplochiton scleroxylon(アオギリ科)。カメルーンの半落葉性樹林では、原生林の高木層を形成するこのような大木が陽樹であることが多い。

Musanga cecropioides(ヤルマ科)。焼畑放棄後10〜20年程度の若齢二次林の高木層を優占する。

40年以上前に放棄されたといわれる集落跡地。一見しただけでは、集落があったかどうかはわからない。
(2) 本研究は、カメルーン東南部の熱帯雨林帯に暮らす焼畑農耕民を対象とし、人々の居住や農耕をはじめとする様々な生業活動が、いかに森林植生の動態に関わっているのかということについて、人々の森林利用や居住の歴史的変化、及び過去から現在に至るまでの国家・国際社会のマクロな政治・経済状況をふまえつつ明らかにすることを目的としている。

(3)  現地調査は、2005年1月15日〜2005年3月31日にかけて、カメルーン東部州ブンバ・ンゴコ県に位置するミンドゥル村、及びジャー川流域においておこなった。今回の派遣では、調査地域に暮らす人々の森林利用の歴史的変遷と植生への影響を明らかにするため、集落移動の理由や時代背景に関する聞き取り調査、及び集落跡地における植生調査をおこなった。
  一般的に、焼畑農耕民の集落の移動は、耕地として利用できる森林の減少がその理由とされているが、調査地域では、民族間あるいは親族間での争い、統率者の死去、病気の蔓延、お墓の増加などが理由としてあげられた。さらに、1930〜60年代では植民地あるいはカメルーン政府による集住化政策が、1970年代以降では伐採事業による幹線道路の拡大といった社会状況の変化が大きく影響していることが明らかになった。また、人々が集落を形成する場所は、飲み水として利用できるよい泉があることや、焼畑を開くのに適した森林が広がっていることなどによって決まるといわれ、こうした生態学的な森林の特徴と集落内外における社会状況の変化に応じて人々の生活は大きく規定され、同時にそうした彼らの生活の変化にともなって、人間活動が森林植生へ及ぼす影響も変化していると考えられる。
  植生調査をおこなった集落跡地は40年以上前に放棄されたといわれ、当時の村人によって植えられたカカオやグレープフルーツの木、アブラヤシなどが確認された。植生調査の結果、原生林の構成樹種であり、かつ陽樹であるものが多く観察され、調査プロットではAlbizia adianthifolia(マメ科)やTerminalia superba(シクンシ科)が胸高断面積比で大きい値を示していた。調査地域において、10〜20年生の若齢二次林ではMusanga cecropioides(ヤルマ科)という樹種が高木層を優占するが、調査プロットのような20年以上を経た老齢二次林ではMusangaは枯死し、場所によって樹種構成の異なる林分が形成される。これにはもともとの樹種構成が異なることや、焼畑を造成した際に伐らずに残された樹木の存在が、影響を及ぼしていると考えられる。
  先行研究において、カメルーンの半落葉性樹林の高木層を形成する構成樹種には陽樹が多いこと、また自然状態ではきわめてその更新が貧弱であることが報告されており(Atanga 1998;中条 1992)、これらをふまえて中条(1992)は伝統的焼畑などの大きなギャップが更新に有効に働いている可能性のあることを指摘している。調査地域においても、一般的に原生林と呼ばれている森林の高木層で多種多様な樹種が観察されるが、その構成樹種の多くは陽樹である。以上のことから考えると、現在我々が見ている森林景観の多くは、実は焼畑や居住といった人間活動によって形成されたものである可能性が示唆される。だとすれば、それは老齢二次林が形成されるような森林利用のあり方、すなわち、かつてのような集落の移動をともなう焼畑農耕生活によって実現されてきたのではないかと考えられる。現在、人々は幹線道路沿いに定住し、Musangaの優占する若齢二次林を循環的に利用しながら焼畑農耕を営んでいる。このような森林利用形態は、短期的にみれば森林の持続的利用を実現しているともいえるが、今回の植生調査の結果をふまえると、Musangaが枯死した後、さらに年数を経た老齢二次林が形成されなければ、高木まで生長せず更新できない陽樹が存在することも事実であり、長期的にみれば樹種構成が単純なものになってしまう可能性がある。今後の調査では、原生林、及び放棄後年数の異なる他の集落跡地における植生調査をおこない、人間活動が森林の更新にどのように関わってきたのかということについての通時的な理解を深め、そのうえで現在の森林の状況や森林利用の持続性について検討していきたい。

Atanga,E. 1998 “Large Mammals and Vegetation surveys in the Boumba-Bek and Nki Project Area, Research Report WWF CAMEROON PROGRAMME”

中条廣義. 1992. 「西アフリカ・カメルーン東部における熱帯半落葉性樹林の生態と持続的利用の可能性」『アフリカ研究』41:23-45.

 
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