(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2006年2月5日〜2006年5月6日, 派遣国: ナミビア
(1) ナミビア北部、オヴァンボ農牧民の自然資源利用と自然環境との相互変化
藤岡悠一郎 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 自然資源利用,キャトルポスト,生業変容,生態史,社会・経済変容


キャトルポスト周辺で採取されたイモムシ

キャトルポストにおけるウシの予防接種

キャトルポストから村へ持ちかえられた厩肥
(2) ナミビア北部に暮らす農牧民オヴァンボの社会では、自然資源の利用方法が、自然環境との相互的な関係と、彼らの地域社会をとりまくマクロな社会・経済変容のもとで大きく移り変わっている。本研究では、オヴァンボ農牧民の自然資源利用の変遷とそれを促進させた要因を明らかにし、自然環境の変化との相互性に着目した生態史を描くことを目的とする。

(3) 現地調査は、2006年2月〜2006年5月まで、ナミビア北部オシャナ州のウウクワングラ村にて行った。オヴァンボ社会では、ここ数十年の間に村から数十km離れた場所に柵で囲まれた放牧地を保有する世帯が増加している。この土地は英語でキャトルポスト(現地語でオハンボ)と呼ばれ、放牧への利用にとどまらず、自然資源の利用地としても重視されている。今回の調査では、キャトルポストにおける自然資源利用の実態と、キャトルポストが増加した背景について調査を行った。
  ウウクワングラ村では30世帯中8世帯がキャトルポストを保有していた。オヴァンボの牧畜は、乾季の間にウシを村から数十km離れた場所に連れて行く季節移動放牧の様式がとられ、乾季の放牧地には家畜キャンプが設けられる。かつては、乾季の放牧地は一時的に利用されるだけであったが、1982年から土地を柵で囲い、牧童を雇い、一年中ウシの放牧をそこで行う世帯が現れた。そのようなキャトルポストを設置するためには、村長に一定の代金を支払わねばならず、また牧童の雇用などに莫大なお金が必要である。そのため、キャトルポストを保有するのは、安定した職を過去あるいは現在にもつ、村の富裕者のみであった。
  キャトルポストは、ウシの放牧地としてのみならず、牧草以外の自然資源の採集地としても利用されていた。特に、村の自然環境が移り変わり、食用昆虫や有用植物が減少している近年では、キャトルポストがそれらの採集地として重視されている。採集は、キャトルポスト保有者に雇われた牧童や、定期的に訪れる保有者によって行われる。しかし、それらの資源は自分の世帯でのみ利用されるわけではなく、贈与を通じて親戚や近所の世帯にも分けられていた。
  すなわち、現代のオヴァンボ社会では、職をもつ一部の富裕者がキャトルポストを設置し、村周辺で得にくくなった自然資源の調達の場として利用している。また、キャトルポスト保有世帯からの贈与は、キャトルポストを保有せず、遠方への資源のアクセスが難しい世帯に希少な自然資源の利用機会を提供している。しかし、一方で資源利用地の拡大は周囲の自然環境の悪化を導く可能性があり、生息数が少ない動植物に関しては個体数などに関する生態学的な調査や何らかの規制の検討も必要であろう。

 
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