報告
タンザニア・フィールド・ステーション(TFS)活動報告N0.1
「2005年4−6月の活動概要及びCOE研究員の個別研究」
荒木美奈子 (21世紀COE研究員)

  2005年4月から6月までのタンザニア・フィールド・ステーション(TFS)の活動概要及びCOE研究員の個別研究について報告します。

1.TFS活動概要

1)ASAFAS教員・院生の調査研究
  ASAFAS教授・掛谷誠と同助教授・伊谷樹一は、ソコイネ農業大学の研究スタッフと共同研究の方針を協議したのち、Mbeya州Mbozi県において植生とその利用に関するフィールドワークを実施しました。調査には、Tanzania National Tree Seed Program の元研究スタッフRuffo氏、ASAFASの卒業生で、現在ソコイネ農業大学のシニア教官であるDr. Nindi、ASAFASの院生・黒崎龍悟(平成12年度入学)と神田靖範(平成16年度入学)、京大農学研究科院生・山本佳奈が同行しました。また、荒木は、ソコイネ農業大学との協議に参加したのち、Ruvuma州Mbinga県において農村調査を開始しました。

 
写真1.植生調査
植物分類学者Ruffo氏をともなって、Mbozi県のミオンボ林帯における樹種構成の変異を調査する。
この調査で、ブタキステギア属間の交雑種を発見する。
 

写真2.フィールドワークの副産物
ミオンボ林にはさまざまなキノコが生える。
写真はシロアリ塚に群生するTermitomyces sp. シメジに似た食感は絶品。

写真3.農村調査
ルクワ湖畔のアカシア・ウッドランドで繰りひろげられる水田稲作について、農業生態学的な調査をおこなう。
乾燥地域での稲作には、さまざまな在来の知識や技術が秘められていた。 写真左は掛谷教授、右は院生の神田、中央は稲作の説明をする農民。

2)TFS利用状況
  TSFは、ASAFASの教員・院生以外にも、多くの研究者と学生(京都大学大学院農学研究科、同大学院地球環境学堂、同大学院理学研究科、同大学院人間・環境学研究科、東京工業大学、福井県立大学、東京外国語大学など)がデータ整理、調査準備、討議の場として活用しています。
  COE研究員は、当施設の環境整備と運営に携わりながら、院生の指導と資料収集に従事しています。

写真4.タンザニア・フィールド・ステーション

3)TFSホームページ
  6月中旬より、TFSホームページ立ち上げの作業に入りました。TFSメンバーによる会議の後、HP作成に関しては川西陽一(ASAFAS:平成14年度入学)、近藤史(ASAFAS:平成11年度入学)・小川さやか(ASAFAS:平成12年度入学)らの主導のもと、関係者が個人の研究プロファイルや割り振られた項目の執筆を行っています。

2.タンザニアの大学との研究協力体制の維持と推進

1)ソコイネ農業大学(SUA)
  ソコイネ農業大学地域開発センター(SCSRD)所長、A.Z.マテー教授と協議のうえ、SUAとの研究協力体制推進のためにリサーチ・アソシエートシップを申請することにしました。タンザニア人研究者と共同研究を進めている科研「地域研究を基盤としたアフリカ型農村開発に関する総合的研究」メンバーである掛谷誠、伊谷樹一(ASAFAS教員)、荒木美奈子(ASAFAS・COE研究員)、北畠直文、樋口浩和(京大農学研究科教員)・山根裕子(京大農学研究科・研修員)の申請手続きを開始しました。

2)ダルエスサラーム大学
  元ASAFAS外国人客員教員であるイシュミ教授やマギンビ教授と今後の協力体制について意見を交換しました。また、同大学の地理学部の教員陣とは、調査地域の特性について情報交換するとともに、IRA(Institute of Resource Assessment)や図書館(とくにEast African Section)において地形図や植生図などの資料を収集しました。

3.COE研究員の調査研究
  TFSの研究テーマである「グローバリゼーション下における地域の社会、経済ならびに自然環境の変容」について、グローバルな潮流とローカルな人々の生活が交差する「開発」実践の場に焦点をあてながら、科研「地域研究を基盤としたアフリカ型農村開発に関する総合的研究」の一環として調査研究を行っています。
  調査研究の背景としては、1999年5月から2004年4月までの5年間実施されたソコイネ農業大学地域開発センター(SCSRD)プロジェクトに、JICA専門家として参加し、地域開発の実践に従事する機会を得たことがあげられます。SCSRDプロジェクトは、学際的・多面的アプローチによって、地域の実態を把握し、固有の地域に即した持続可能な地域開発手法(SUAメソッド)を練り上げることを目的としていました。SUAメソッドの特徴としては、(1)フィールドワークによる実態把握に基づき、(2)「焦点となる地域特性(焦点特性)」を見出し、(3)諸アクター(住民、自治体、NGO等)の「参加」を原動力としながら、(4)「在来性のポテンシャル」を活性化しうるような地域開発を構想・実践することを目指す。(5)「学びのプロセス」を重視し、全体を通して(6)プロセス・アプローチを組み込むという6点が挙げられます。
  SUAメソッドの構築を目的とし、ムビンガ県とモロゴロ地方県で活動が実施されました。ムビンガ県ではマテンゴの居住するマテンゴ高地の旧村であるキンディンバ村と新村であるキタンダ村が対象地区となりました。SUAメソッドの特徴に沿って展開されたプロジェクトですが、住民、SCSRD、行政、NGO等の諸アクター間の接触、賛同、交渉、衝突などを経て、どのような「プロセス」が創り出されてきたのかに焦点をあて、キンディンバ村にて調査を開始しました。人びとが主体的にプロセスを創出していくあり方に注目することによって、アフリカ的内発的発展の糸口を見出していくことができるのではないかと考えています。調査期間中、キタンダ村で協力隊員として活動をしていた黒崎龍悟(平成12年度入学)を訪ね、キタンダ村での状況を聞くとともに意見交換を行いました。地域間比較を行うことにより、地域による差異や共通点、その特徴を明らかにしていくことができるのではないかと考えています。また、農村での住み込み調査に加え、ムビンガの町では、農業省、天然資源省等の関係省庁や銀行での聞き取りを行いました。

報告 >>No.2

 
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