(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2006年9月17日〜2006年12月17日, 派遣国: タンザニア
(1) 東アフリカにおけるイスラーム知識人
藤井千晶  (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: 東アフリカ沿岸部,タリーカ,イスラーム実践,預言者の医学,祈り


写真1:カーディリー教団が運営するクルアーン学校。子どもたちは毎日,クルアーンの読み方、アラビア語の読み書き、教団の教えなどを学ぶ。


写真2:植物などを材料とした薬を売る店。アラブ諸国から輸入された薬が棚に並んでいる。


写真3:2枚目の写真と同じ店。商品の最前列には「伝統的な」薬が売られており、客は自ら調合する。
(2)  本研究の目的は、東アフリカ沿岸部における人々のイスラーム実践について明らかにすることである。ザンジバルのムスリムは、1日5回の礼拝やタリーカの活動、民間治療等、多くの局面で祈る。彼らはクルアーンやハディース、尊崇するシャイフの教えに基づき、自分たちの生活を見直し、より「イスラーム的な」生活を実践することで日常の問題を解決しようと務めている。本研究は、特に「預言者の医学」に注目し、祈りを通して日常生活を「イスラーム的に」解釈しようとする人々の日常実践を明らかにすることを目標とする。

(3)  今回の現地調査で明らかにしたのは、主に次の2点である。

  1. タリーカの修道場の調査
    ザンジバルにおけるタリーカの修道場の位置や、どのようなタリーカがどのように活動を行っているか、については、これまで明らかにされていなかった。今回の調査では、ザンジバル全土を回り、島内全域に100カ所以上の修道場があることを明らかにした。また、80以上の修道場におけるインタビューから、そのほとんどがカーディリー教団に属しており、彼らは現在もイスラーム教育等、社会的にも重要な役割を果たしていることが分かった。

  2. 預言者の医学の発見
    また、調査地に決定したM地区の修道場の指導者Aは、クルアーンやハディース(預言者ムハンマドの言行録)に則って治療を行う医者でもあり、多くの時間を問診や、祈り(ドゥアー)を伴った治療に費やしていた。これまでの先行研究では、西洋以外の医学は、「伝統医学」や「呪術」として一括りにされてきた。しかし、今回の調査では、ザンジバル人が明確に「非イスラーム的な呪術」と区別している「イスラームに則った医学(預言者の医学)」という分野があることが分かった。預言者の医学に関する多くの書籍がスワヒリ語で出版され、精神的・肉体的な病気の治療や日常生活の問題の改善、願掛けなどが行われている。そのため、預言者の医学に注目することで、西洋医学と預言者医学との関係、現在のザンジバル人が、日々の中の問題をイスラームの教えに則ってどのように解釈し、解決しようとしているかといった、彼らのイスラーム実践の一端が明らかにできると考える。

 
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