(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2006年6月5日〜2006年9月3日, 派遣国: インドネシア
(1) インドネシアにおける国立公園周辺の鳥類相と人間活動との関係
片岡美和 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: 鳥類相,捕獲,利用,住民認識,国立公園


写真1: 茶農園で営巣する鳥。住民は、村落周辺で営巣する鳥を、巣から捕獲する。


写真2: 飼い鳥は住民にとって、地位や権力の象徴、娯楽などさまざまな意味を持つ。
(2) 現在、人間による影響を全く受けていない純粋な自然地域は極めて少なく、人間と土地との共存のもとに存在する自然地域が多数存在する。そのため、地域社会の存在形態や地域社会がもっている文化の系統(信仰、習慣、習俗など)、伝統的土地利用のあり方などが、景観に重要性をもたらす因子として重要視されている(本中 1997)。
  ジャワ島西ジャワ州にあるグヌン・ハリムン−サラック国立公園地域には約103の村落が存在し、一次林のほか二次林や村落、茶畑、水田、畑地などが混在した土地利用となっている。さらにこの地域には、伝統的慣習によって生業活動に独自の制約を設けている村落が存在しており、村落ごとに生活様式や農法に違いが見られる。そのため国立公園における保全活動には、周辺地域に住む人々の文化的背景、生活様式や農法の、役割や機能を視野に入れる必要がある。しかしながら、既存の研究は、保護区の生物多様性の高さや地域住民による環境破壊を個別には報告してきたが、地域住民の生業活動がどのように保護区や村落地域の動物相と関わっているかという側面は明らかにしていない。そこで本研究では、人間活動の社会・文化的側面の違いが、村落や周辺の保護区の鳥類相に与える影響を明らかにすることを目的としている。

(3) 報告者はこれまでの調査において、国立公園周辺の農村景観が農村や森林周辺に生息する鳥類の生息状況に与える影響を調査し、住民の生業活動の違いに起因する村落内の資源分布の変化が鳥類の種分布を変化させていることを明らかにした。具体的には、薪炭林の伐採や換金作物の栽培面積の拡大、さらには土地の所有権や土地利用変遷が、地域生態系の現状と深く関わっていることが示唆された。
  今回の調査は、生業活動や農法の違いがみられ、国立公園に隣接する複数の村落で、鳥類の生息調査を行った。併せて村落の社会経済状況の概 要を把握するためのインタビューを行った。本調査時期は、鳥の渡りの季節であったため、地域に定住する鳥類以外の渡り鳥による環境利用にも着目した。
  今回の調査では、村落の住民が日常の生活においてどのように鳥類を認識し、鳥類を利用しているかについて調査を行い、鳥類の生息状況の現状を説明する副次的要因の抽出を試みた。調査は、これまで鳥類の生息調査を行ってきた調査地で、住民に対して、野鳥に関する知識、認識、捕獲の経験、捕獲後の利用方法に関するインタビューを行った。その結果、住民は、鳥類を食用や飼育のために時々捕獲する程度であることがわかった。鳥類の捕獲は、10代〜20代前半の男性によって行われることが多く、捕獲方法は、捕獲者の年齢や捕獲目的によって違いがみられた。村落周辺に生息する小型の鳥類が対象である場合には、巣から幼鳥や成鳥を捕獲する方法が多くとられた。中型・大型の鳥類を捕獲する場合には、銃器が用いられ、食用にされることが多かった。
  今後は、現在の鳥類相の現状に影響していると考えられる過去の捕獲の履歴に関しても、分析をすすめていく。

 
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