(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2006年7月3日〜2006年8月25日, 2006年9月30日〜2006年10月29日, 派遣国: タイ
(1) メコン河中流域における住民の漁業資源利用と河川開発の影響 −タイ、パクムンダムを事例として
木口由香 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: メコン河, 開発, パクムンダム, ローカル・ノレッジ, 内水面漁業

(2) メコン河中流域では、淡水魚の食料としての利用が盛んである。特に、自給自足的な生活を送る農村部の人々にとっては、食料の安全保障という面でも水産資源は非常に重要である。この地域ではダム建設を中心とした河川開発が急速に進行している。ダムは河川に生息する生物、特に魚類に影響を与えることが知られている。タイ東北部、メコン河の支流ムン川では淡水漁業が盛んであったが、1994年に完成したパクムンダムは地域漁業に大きな影響を与えた。従来の開発事業では、住民の河川における資源利用、特に漁業の重要性について注意が払われることは少なかった。パクムンダムのケースでは、漁民による大規模なダム反対運動がおき、ダム建設後に住民の知見や自然利用について調査がされることになった。また、タイ政府は住民の要求を一部取り入れ、2003年からパクムンダムの水門を年間4ヶ月間開放し、魚類の回遊への影響軽減を図っている。
  このような背景のもと、博士論文では現在の水門開放下における地域住民の漁場利用と漁法および魚類に係る情報を収集すると同時に、地元漁業の過去から現在に至る変遷を明らかにしたうえで、過去それがどのように開発の中に位置づけられていたか、あるいは軽視されたかを考察する。

(3) 本研究では、ウボンラチャタニ県ピブンマンサハン郡、シリントン郡、コンヂアム郡のムン川流域の村落で2006年7−8月、10月に調査を行い、魚類の行動に精通している地元漁民からその漁場の利用、漁具使用状況を聞き取りによって明らかとした。同地域漁民は、「ルアン」と呼ばれる漁場認識を持っていることが先行研究で明らかにされている。今回、漁具によって「ルアン」を設定するものとしないものがあることが分かった。また、流し刺し網漁の主要な「ルアン」が三カ所あり、漁場の利用法や住民の守る規則がそれらの場所でほぼ同様であることが明らかとなった。現地では様々な筌(うけ)型の漁具が利用されているが、その一部のルアンについて、GPSで位置を確認した。また、刺し網とロープ(筌の一種)については、現地大学の協力で魚類の採取と同定を行い、これらの漁具で捕獲されている種を同定した。
  調査では水門の年間4ヶ月開放によって、ダムの建設後利用されていなかった流し刺し網の漁場が再度使用されていることが確認された。また、住民はダムの水門開放に合わせ漁を行っており、ダムの水門開放で魚類のムン川の遡上が可能になったこと、ダムの貯水による水の停滞がおこらず、刺し網を流すための自然な流速が回復したことが推測された。

 
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