フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年2月10日〜3月30日, 派遣国: ラオス
(1) ラオスSavannakhet県における植生の二次遷移と土地利用
小坂康之  (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: ラオス中部,土地利用,有用動植物利用,植生,二次遷移

(2) ラオス中部から東北タイに広がる丘陵地は、中生代の赤色砂岩を母材とする波状の侵食面で、そこには乾燥フタバガキ林、落葉混交林、常緑林とその代償植生がみられる。博士論文の目的は、ラオス中部地方において、現存植生の分布と人々の生業活動から植生の二次遷移様式を推定し、人々の土地利用や森林管理の現状を考察することである。


写真1: 水田内に生えるPeltophorum dasyrrhachis

写真2: 焼畑耕作地内に生えるPeltophorum dasyrrhachisの若木
(3) 今回の現地調査は、3月16日から4月3日まで、Savannakhet県Champhone郡のNakhou村とBak村で行われた。Nakhou村とBak村は南北に続く一連の斜面上に位置する。低みのNakhou村から高みのBak村中心部までは水田が広がり、Bak村中心部より高みでは焼畑が行われ、水田と焼畑の境界域には湧水が点在している。その水田や焼畑の中には、多くの樹木が残されている。そこで両村落において、耕地内や耕地周囲の植生調査、過去の植生や村人の植物利用についての聞き取り調査を行った。
  まずNakhou村では、村内の道3kmにわたり、道の両側100mずつに含まれる水田内の樹木(約2000本)について、樹種、胸高直径、樹高を計測し、それぞれの樹木の位置をGPSで記録した。これらのうち、自然に生えたものは89種、村人によって植えられたものは20種、かつて植えられたものの中で実生が自然に生えたと推察されるものは5種であった。自然に生えた種は、水田の立地や水田内の微地形(畦やシロアリの塚)によって分布の異なることが観察された。有用植物利用について水田所有者15世帯に聞き取りをしたところ、水田内の樹木(写真1)は稲の生長を促進すること、家畜や人に日陰を提供してくれること、まとまった林地のないNakhou村では薪炭材として重要であることなどが挙げられた。また、昔Nakhou村には、Dipterocarpus alatus、Pterocarpus macrocarpusなどの大木が多かったが、それらはみな伐採されてしまったという。
  次にBak村では、高みの林地内で伐採・火入れ後2年目、5年目、10年目、20数年目の土地と保護林の植生調査を行った。これらの土地全てにおいて、1970年代の革命期に政府の収入源とするため、ベトナム軍の援助のもとDipterocarpus alatus、Pterocarpus macrocarpus等の大木の伐採が行われたという。調査の結果、火入れ後Peltophorum dasyrrhachisが大量に発芽し、作物であるパイナップルやバナナの間で成長することが明らかとなった(写真2)。同樹種は、2年目にDBH2cm・樹高4m、5年目にDBH25cm・樹高17m、10年目にはDBH30cm・樹高20m程度に成長していた。そして火入れ後20数年目の土地では、高木層を形成するPeltophorum dasyrrhachis Dialium cochinchinenseの下で、Dipterocarpus alatusDalbergia sp.等、極相種の若木も成長していた。このような二次林は、カルダモンやラタンの芯・実なども産する。一方、過去に伐採はあったものの火入れされていない保護林においては、Peltophorum dasyrrhachisは観察されなかった。
  以上の結果から、Nakhou村とBak村の位置する一連の斜面上の植生は、以下のように変化してきたと推察される。昔、一帯はDipterocarpus alatusPterocarpus macrocarpusの大木の生える常緑林や落葉混交林であった。やがて、低みの水掛りの良い所には水田が拓かれ、高みでは焼畑が行われるようになった。水田内の樹木は、開墾前の林地の優占種からStreblus asper、Tamatindus indica、Azadirachta indica等の人里に生える樹種や植栽樹へと変化してきている。また高みの林地では、焼畑や70年代の大規模な伐採により、現在広域に渡りPeltophorum dasyrrhachisDialium cochinchinenseが高木層を形成している。この中で特に注目されるのが、Peltophorum dasyrrhachisの存在である。この樹木は二次遷移の先駆種で、高みの水田内や火入れ後約20年以内の焼畑・休閑林内に多く観察された。その材は、商業伐採の対象となるほどの価値はないが、村人により建材、薪炭材として非常に多く利用されている。このように両村落では、水田開墾、伐採、焼畑によってかつての大木のそびえる原生林は失われたが、人々は耕地内の植物や耕地周囲の二次林を積極的に利用していることが明らかとなった。

 
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