アジア・アフリカ地域研究 第6-2号

書名:

アジア・アフリカ地域研究 第6-2号
特集「地域研究の前線」

編集・発行元: 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
 
 

【特集にあたって】

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科は東南アジア研究所とともに、2002年10月から2007年3月までの期間、「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」と題する21世紀COEプログラムを実施した。このプログラムはいくつかの柱からなるが、そのひとつは、アジア・アフリカ各地にもうけたフィールド・ステーションに大学院生、若手研究者、教員を派遣し、臨地教育と調査活動を統合的におこなうことにあった。本号に掲載されている論文の著者たちは、このプログラムに参加するなかで学問的に大きく成長した大学院生や若手研究者である。その意味で、本号はフィールド・ステーションを中心に展開された教育研究活動の成果の一端をしめしている。

本号に掲載されている論文は、本誌の他の号とおなじ査読のプロセスをへて採択された投稿論文である。編集委員会では、採用を決定した論文の数が相当に多かったので、それらをいくつかの部に区分することにした。しかし、実際に作業をしてみると、論文の各部へのふりわけはそう簡単にはいかないことがわかった。多くの論文が領域横断的(トランスディシプリナリー)であると同時に、基礎研究と応用研究の双方にまたがっていたからである。いろいろな案を試したのち、結局たどり着いたのが現在の「人間生態問題群」、「政治経済問題群」、「社会文化問題群」という3つの部からなる、無難だが新味のない構成だった。

   
         
      【書名】

アジア・アフリカ地域研究 第6-2号
特集「地域研究の前線」

 
      編集・発行元 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科  
      【出版年】 2007年3月  
             
   

実をいうと、これは、われわれの21世紀COEプログラムの統一研究テーマ「地球・地域・人間の共生」のもとに設定された4つの問題群のうちの3つを借用したものである。21世紀COEプログラムでは、このほかにプログラムの全体を領域横断的にすすめるための装置として「地域研究論問題群」がもうけられた。しかし、プログラムの運営にたずさわった者の実感からいうと、これがうまく機能したとはいいがたい。にもかかわらず、本号に登載されている論文のような研究が現れてくる背景には、さまざまな学問分野のパラダイムが覇権を競うことなく、同時並行的に作用している地域研究という「場」があるといえるだろう。

こうした「場」でおこなわれる多様な研究活動の全体を理論的な言葉で要約することは至難である。そうであるなら、現在進行しつつある研究の具体例をできるだけ多くしめすことで、刻々と変化する地域研究の姿を浮かびあがらせることは、成果報告の手法として理にかなっているだけでなく、地域研究とは何かという、しばしば発せられる問いに対する最良の答えにもなるだろう。特集のタイトルを「地域研究の前線」とした理由はこうした考えによる。この場合の「前線」はミリタリー・メタファーではない。気象学用語の転用だろうが、同時期に複数の場所で生じる、ある現象をむすぶ仮想の線を「前線」とよぶことがある。複雑な曲線をえがきながら、おりしも京都にむかって近づきつつある桜の花の「前線」のように。

本号の初校刷りが印刷所からとどいて間もなく、投稿者のひとりであると同時に21世紀COEプログラムの立ち上げに尽力した百瀬邦泰氏の訃報がとどいた。今後ますますの活躍が期待されるなかでの逝去だった。ここに謹んで哀悼の意を表する。

『アジア・アフリカ地域研究』編集委員会

 
   

特集「地域研究の前線」

特集にあたって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『アジア・アフリカ地域研究』編集委員会

 ■ 第1部 人間生態問題群
  • 安達真平
    Agricultural Technologies of Terraced Rice Cultivation in the Ailao Mountains, Yunnan, China
  • 市野進一郎
    マダガスカル,ベレンティ保護区におけるキツネザル類の保全状況とその課題
  • 近藤史
    タンザニア南部高地における造林焼畑の展開
  • 西崎伸子
    国立公園周辺における在来の獣害対策とその変容―エチオピア南西部マゴ国立公園と農耕民アリの事例―
  • 四方篝
    伐らない焼畑―カメルーン東南部の熱帯雨林帯におけるカカオ栽培の受容にみられる変化と持続―
  • 嶋村鉄也・百瀬邦泰
    Reciprocal Interactions between Carbon Storage Function and Plant Species Diversity in a Tropical Peat Swamp Forest
  • 安岡宏和
    アフリカ熱帯雨林における狩猟採集生活の生態基盤の再検討―野生ヤムの利用可能性と分布様式から―


 ■ 第2部 政治経済問題群
  • ピヤワン・アサワラシャン
    ピブーン政権期(1938〜44年)における服装政策
  • 藤岡悠一郎
    ナミビア北部における食肉産業の展開とオヴァンボ農牧民の牧畜活動の変容―キャトルポストの設置に注目して―
  • Mamo Hebo
    Disguised Land Sale Practices among the Arsii Oromo of Kokossa District, Southern Ethiopia
  • 丸山淳子
    「国民」と「先住民」のはざまで―ボツワナの再定住地におけるサンのヘッドマン選出をめぐるマイクロ・ポリティクス
  • 中西嘉宏
    官僚制を破壊せよ―ネー・ウィン体制期ビルマにおける行政機構改革と国軍将校の出向―
  • 山口哲由
    雲南省北西部山地の移動牧畜における移動ルートと家畜分布―社会環境の変化に着目して家畜と放牧地のバランスを探る試み―
  • 横田貴之
    ムバーラク政権下のエジプトにおける「民主化」とムスリム同胞団―改革イニシアティヴと政治活動をめぐって―
  • Achakorn WONGPREEDEE
    Decentralization and its Effect on Provincial Political Power in Thailand


 ■ 第3部 社会文化問題群
  • 新井一寛
    聖者・預言者一族の末裔とタリーカ(スーフィー教団)の萌芽状態―現代エジプトにおけるシャイフAの事例を通じて―
  • 分藤大翼
    ポスト狩猟採集社会の文化変容―バカ社会における仮面儀礼の受容と転用―
  • 石坂晋哉
    現代インドのガンディー主義的環境思想―スンダルラール・バフグナのサルヴォーダヤ環境思想―
  • 金子守恵
    生業としての土器づくり―エチオピア西南部における土器づくりの地域間比較研究にむけて―
  • 小林知
    ポル・ポト時代以後のカンボジアにおける農地所有の編制過程―トンレサープ湖東岸地域農村の事例―
  • 中村香子
    牧畜民サンブルの「フェイク」と「オリジナル」―「観光の文脈」の誕生―
  • 小川さやか
    タンザニア都市古着商人の商慣行の変容にみられる平等性と自立性
 

 

 
 
 
 
21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」 HOME