The Common Marine Plants of Southern Vietnam

書名:

The Common Marine Plants of Southern Vietnam

著者: TSUTSUI Isao, Huynh Quang Nang, Nguyen Huu Dinh, ARAI Shogo and YOSHIDA Tadao
発行元: Japan Seaweed Association
 
 

【経緯】

第一著者は、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科での博士研究の過程で、臨地調査先であるベトナムの沿岸環境に強い危機感を感じました。なぜなら、当地では環境アセスメントが十分になされないままに沿岸開発が行われ、またアセスメントの基礎知見となる環境調査が出来る人材もほとんどいない状況であったためです。1999年に初めて調査に入り、定期モニタリング調査定点を12カ所設定しましたが、そのうち6地点は、2003年の帰国の時点では埋め立てられてしまいました。この中には、沿岸住民が日常的に海藻類や無脊椎動物・魚類を採集・捕獲しているような干潟や藻場があり、また未記載種の海藻類の生育場所も含まれていました。他の熱帯諸国と同様にベトナムにおいても、沿岸住民の生活の場であり、生態的に重要な役割を果たしている干潟や藻場に対する関心が低いのが現状です。

ベトナムでは海洋生物に関する書籍や資料が十分になく、特に海藻・海草類については過去の資料や図鑑類も少ないです。 生物の多様性の保全やアセスメントには、種を識別することが重要ですが、学生や研究者が種の同定を行うのすら困難な状況です。そこで、博士研究の際に撮影した海藻・海草類の生態写真などをとりまとめて小冊子にし、それをベトナムの大学や研究機関、海藻・海草類研究者・学生ら、環境関係機関などに寄贈しようと、本事業をはじめました。

その後、経団連自然環境保護基金より現地調査費の助成を受け、生態写真を追加することが出来、本格的な図鑑作りへと発展しました。

   
         
      【書名】 The Common Marine Plants of
Southern Vietnam
 
      【著者】 TSUTSUI Isao, Huynh Quang Nang,
Nguyen Huu Dinh, ARAI Shogo and
YOSHIDA Tadao
 
      【発行元】 Japan Seaweed Association  
      【出版年】 2005年  
      【内容】

 

 
     
  • 判型:A5判
  • 製本:並製本・オールカラー・しおり付き
  • 本文:267ページ
  • 掲載種数:201個体・183種
    (緑藻類:60個体・52種、褐藻類:39個体・37種、
    紅藻類:95個体・89種、海草類:7個体・5種)
  • その他:利用や採取・養殖などに関する
    知見をコラムとして掲載。
 
 

【趣旨】

本書は以下にあげる3つを元に作製されました。

  1. 博士研究で得られた知見を、現地に還元すること。
  2. 生態写真の品質、種の同定、写真データの正確さ、使いやすさなどにおいて、これまでに世界で出版されたことのない生態図鑑を作製すること。
  3. 単なる海藻・海草類の生態写真図鑑ではなく、利用や採取、養殖など地域研究の結果を盛り込むこと。

 

   

【本書の特徴】


    拡大
  • 英語とベトナム語の併記
    多くの国際共同研究では、その貴重な結果が英語で国際学術誌などに掲載されることが多く、現地のためという視点が多くはありませんでした。そのため本書では、ベトナム語も併記し、臨地研究先への「還元」を重視しました。
  • 生態写真と標本写真を掲載
    海藻類の場合、形態や色合い・質感が生態と乾燥標本の間で大きく異なることが多く、そのため学生など入門者らにとって、海藻・海草類の同定が困難となっています。そこで、生態写真とその撮影した海藻・海草類そのものの乾燥標本写真および一部に顕微鏡写真を同じページに示し、形態や色合いの差異を示しました。
  • 高精度の分類
    これまでの多くの生態図鑑では、生態写真から種が同定されていました。本書では、撮影した海藻・海草類そのものを採取し種を同定したため、本書で示した種名は他の生態図鑑よりもはるかに高精度です。標本類は、アジアで最も多くの海藻分類学者が利用する、北海道大学の標本館に保管しています。
  • 撮影データを掲載
    海藻・海草類は季節や水深により形態・色などが変化します。そのため、示された生態写真が撮影された場所・撮影日・水深を明記しました。
  • やらせなし
    他の生態図鑑などでは、水槽撮影したものや実際は他の場所で撮影されたものなど、いわゆる「やらせ」写真が見られることもありますが、本書ではこれらは一切行っていません。
  • フィールド仕様
    実際に海に持ってゆけるようA5判の大きさにしました。また、現場で海藻類の同定に役立てられる「クイック検索」アイコンを、各ページの余白に挿入しました。さらに小型海藻類の大きさなどを測るための目盛りや、採取した海藻類の形態的特徴を書き込むためのメモ欄をもうけました。
  • コラム
    ベトナムにおける海藻類の利用や採取・養殖など、人と海藻類の関わりを、21のコラムで示しました。
  • 東南アジア各地で利用可能
    ベトナムの海藻・海草相は、東南アジア諸国はもちろんのこと沖縄や日本沿岸南部のそれとも類似しています。本書で示した201個体・183種は、ベトナム以外の地でも利用可能です。

 

 
   

【COE助成の理由】

  1. 第一著者の博士研究で得られた結果が大半を占め、また内容的にも単なる生態図鑑ではなく、養殖や利用等様々なコラムも掲載されており、「学的、文理融合的な総合的地域研究」「社会的還元」を掲げる京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科21世紀COEプログラムの成果として貢献できる。
  2. 「メコンデルタの生態資源利用と社会の変容」を掲げるベトナム・フィールド・ステーションより、印刷費の一部について助成を受けた。

 

 
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