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2005年2月16日、カメルーン共和国首都ヤウンデ(Yaounde)にある WWF-Cameroon (世界自然保護基金カメルーン支部)において、カメルーン・フィールド・ステーションとWWF-Cameroon共催のワークショップ“Workshop on the Baka Pygmies and Bakwele Farmers in the Jengi South East Area”が行われた(写真1)。まず、東南部の保護プロジェクトの責任者であるLeonard Usongo博士(WWF)によってワークショップの目的が述べられ、参加者の簡単な自己紹介が行われた。次に、東南部の保護プロジェクトに関するビデオが放映された後(写真2)、東南部で調査を行っている4人の大学院生(アジア・アフリカ地域研究研究科〈=以下、ASAFAS院生〉3名、ヤウンデ大学人文社会学研究科院生1名)によって研究発表が行われた。参加者からそれぞれの発表に関する質問が行われ、さらにはこのような研究を保護の現場にどのようにとりいれていくべきか、ということについて参加者全員で熱心な討論が交わされた(写真3)。 |
(写真1:WWFオフィス) |
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(写真2: プロジェクトの説明をするUsongo氏) |
(写真3: ディスカッションの様子) |
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京都大学を中心としたアフリカ熱帯雨林の調査チームは、1993年よりカメルーン東南部で狩猟採集民バカ・ピグミーと、焼畑農耕民の研究を行ってきた。WWFは、伐採とそれにともなって活発化してきた密猟から東南部の森林を保全するために、GTZ(ドイツ政府援助機関)とMINEF(カメルーン環境森林省)とともに、1998年よりジェンギ・プロジェクト“Jengi Project”を実施している。これまで日本人研究者と自然保護プロジェクトの関係者は、自然保護計画と住民の生活の融合についてインフォーマルな形で意見交換を行ってきたが、長期にわたってこの地域で調査を進めてきた日本人研究者とフォーマルな形で意見交換を行いたいというプロジェクト側の強い要請によって、2003年12月に東部州ブンバ=ンゴコ県の県庁所在地であるヨカドマ(Yokadouma)において第1回目の共同セミナーが開催された(詳しくは、前回の現地セミナー報告を参照)。第二回目にあたる今回のワークショップは開催地を首都のヤウンデにうつし、参加者も東南部のプロジェクトの関係者に限らず、カメルーンにおいて自然保護と周辺地域の開発に関するプロジェクトを推進している研究者や専門家、調整員のほかに、日本人の調査チームのカウンターパートであるヤウンデ大学のNgima-Mawoung博士、調査チームが植物の同定を依頼する国立ハーバリウムの植物学者 Jean Michel O’nana博士とBarthelemy Tchiengue博士、2002年10月にASAFAS主催で行われた21世紀COEの「難民シンポジウム」の際に講演者として来日したことがあるドイツ人コンサルタントのKai-Schmidt博士、森林問題を担当している日本大使館員(金井玉奈医務官)、ヤウンデ大学大学院生、ASAFAS大学院生など、さまざまな立場を代表する合計30人あまりが参加し、活発な討論が行われた。 |
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発表はパワーポイントを使って行われ、日本人の学生は英語で、カメルーン人の学生はフランス語で発表を行った。質疑応答は英語で行われたが、フランス語圏の出身者が多かったので、保護計画の改善点についてはフランス語で討論が行われ、必要なときは英語による通訳を交えた。発表時間は当初、1人あたり25分、質疑応答は10分を予定していたが、発表内容や保護計画に対する発表者の考えに関する質問が相次ぎ、発表と質疑応答で1人当たり平均1時間かかり大幅に予定時間を超過してしまった。 |
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ASAFASの大学院生である安岡宏和の発表(写真4)のタイトルは、”Foraging Life in the African Tropical Rainforests”で、狩猟採集民バカが大乾季に定住集落から数十kmほど離れた森で行う長期狩猟採集行、モロンゴ(molongo)について、移動ルートや滞在日数、野生動植物の利用などから分析を行った。ディスカッションにおいて議論の中心となったのは、狩猟動物の数や狩猟方法などバカの狩猟活動の実態に関すること、および彼らの活動全体が森林という環境に対してどのようなインパクトをもつのかということについてであった。生存のための狩猟については許容されるべきあるという発表者安岡の主張に対し、バカの狩猟そのものが森林を破壊する一因であると主張する参加者もいて、両者の意見はなかなか相容れなかった。しかし、今後動物の生息数のモニタリング調査とバカの狩猟の実態に関する調査を継続していくべきであるという点では一致していた。 |
(写真4: 発表する安岡) |
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ヤウンデ大学院生であるOlivier Njounan氏の発表(写真5)タイトルは、“Baka Pygmies and Collaborative Management of PAs: Case of Lobeke”である。彼は、伐採事業や白人によるスポーツ・ハンティングの際に支払われる補償金を有効に活用するために住民の代表者たちによって地域ごとに結成されたCOVAREF (動物資源の管理委員会)の抱える問題点について発表を行った。補償金によって実際に学校や集会所が整備されたケースもあるが、お金がどこに消えたのかわからないケースも多く、補償金の有効利用が難しいこと、および地域社会において優位な立場にある農耕民が主導権を握っているのでバカの意見が取り入れられにくいことなどの指摘がされた。ディスカッションの中心となったのは、バカが積極的にCOVAREFで発言をできるようにするにはどうするべきか、ということであった。これについては、農耕民とバカにはそれぞれ別々に補償金を配ってはどうかということや、現在は農耕民の占める割合が多いCOVAREFのメンバーに、バカの人数をもっと増やすことなどが提案された。 |
(写真5: 発表をするOlivier氏[左]) |
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服部志帆の発表(写真6)は、“Ethnobotany of the Baka Pygmies in South Eastern Cameroon: Utilization of Marantaceae plants”で、特にクズウコン科(MARANTACEAE)の植物の利用に焦点を当て、バカの民族植物学について分析を行った。ディスカッションの中心となったのは、このような民族植物学的な調査を実際に保護の現場で活かすにはどうしたらよいか、ということであった。これに対して服部は、バカの利用する非木材資源
の中で潜在的に市場価値をもつ植物についての詳しい調査を行うことや、森林生態ととともに、バカなどの森の民の植物利用を研究し、彼らの豊かな森の知識を保全するための「森の博物館」の建設を提案した。また、バカが大量にクズウコン科植物を利用するのでそれらの植物が絶滅する可能性があるのではないか、という質問もでたが、これに対しては、クズウコン科の植物は二次植生としても旺盛に繁茂するし、減少しているという報告はないと答えた。また、会議に参加していた植物学者のJean Michel O’nana博士も、クズウコン科植物の生態や繁殖特性について説明し、絶滅の心配は皆無であることを述べた。 |
(写真6: 発表する服部) |
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四方篝の発表(写真7)は、“Interactive Relationship between Human Activities and Forest Environments: A Case Study of Bakwele Farmers along the Dja River”で、焼畑農耕民バクウェレの農耕について、焼畑を含めた彼らの生業活動及び、移住の歴史を記述した後、そういった人間活動が森林動態にどのように影響を与えているのかについての分析を行った。バクウェレは森林を「破壊」してきたのか、それとも「保全」してきたのかと詰問し、性急に答えを求める参加者に対して、四方は、現在の段階で判断をするのは難しく、その答えはさまざまな資料やデータを分析して慎重に出すべきだと答えた。また、調査地を選んだ理由や調査方法など具体的な質問も行われた。 |
(写真7: 発表する四方) |
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全員の発表が終わった時点で、それぞれの発表をもとに保護計画に対する提案が読み上げられた(写真8)。提案は、バカの狩猟に関する継続的なモニタリング調査や、COVAREFのメンバーにバカを増やすこと、非木材森林産物の利用、森林動態に対する影響を含めた、住民の環境利用についての詳細な調査など具体的に行われた。最後に、プロジェクトの責任者のLeonard Usongo博士が、ワークショップで発表された研究成果をプロジェクトに活かしていくのは困難な面もあるが、真剣に取り組んでいきたいこと、そして、これからも長期間のフィールド調査を行っている研究者の意見を聞くようなこのような場を持ち続けていきたいことを強調してワークショップを締めくくった。
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(写真8: 挙がっていくプロジェクトの改善点) |
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ワークショップは午前10時に始まり、安岡の発表の後、コーヒーブレイクをとったものの、予定を大幅にオーバーして午後4時頃までつづけられた。ワークショップの終了後にはささやかな晩餐会があり、ワークショップでは十分に議論できなかった話題や、ASAFASとWWFの今後の協力体制についての話し合いが行われた(写真9)。
前回のセミナーと同様に今回のワークショップでも、長期間のフィールド調査で得た具体的なデータに基づいたASAFAS院生の発表は、参加者に新鮮な印象を与えたようであった。しかし、参加者の中には、住民の活動そのものが森林破壊の一因であるという強い偏見を持つ人もおり、住民の森林環境へのインパクトを肯定的にとらえようとしたASAFAS院生の立場と、住民は森林を「破壊」しているのか「保全」しているのかという二者択一の議論を行い性急に解答を出そうとする保護側の姿勢とは、対立することがしばしばあった。しかし、実際に東南部で保護プロジェクトを推進している人々も含めて参加者のほぼ全員が、バカやバクウェレについてステレオタイプ的なイメージしか持っていないようだったが、発表や議論を通してそれぞれのフィールドで得た生の情報を提供することができ、住民の生活実態について知ってもらうことができたのはとても有意義だった。 |
(写真9: レセプション・パーティにてNgima氏と四方) |