-- 2002年度〜2003年度 --
I フィールド・ステーション部門 II 統合情報化部門 III 教育活動実績 IV 総括 
 I フィールド・ステーション部門

  FSに関しては、これまでの2年間に、延べ27名の教官、52名の大学院生、3名の若手研究者がラオスミャンマーインドネシアエジプトタンザニアエチオピアカメルーンザンビアケニアなどに派遣され、本計画の遂行にあたった。すなわち、大学院アジア・アフリカ地域研究研究科と東南アジア研究センターがこれまでに推進してきたさまざまなプロジェクトの調査拠点に、MOUなどを活用しつつ14FSを設置・整備し、統一テーマにそった文理融合的研究、および大学院生に対するオンサイト・エデュケーションを推進してきた。また、FSを活用して当該地域の教育研究機関と双方的かつ多中心的な研究・教育ネットワークを形成し、共同研究やワークショップの実施、現地語の図書や政府刊行物資料などの収集と整理・発信をおこなった。
  平成15年度には、エチオピア、アジスアベバ大学との共催によって、地域間比較を目的としたワークショップ「環境と生業をめぐる地域住民のとりくみ」を開催し、FSにおける活動の成果を発信した。さらに、カメルーンにおける熱帯雨林保護に関する現地セミナーの開催(WWF, GTZ, MINEFとの共同開催)、インドネシアにおける現地ワークショップ「インドネシアの地方社会のミクロロジー」の開催など、FSを活用した共同研究の推進と研究成果の発信に努めている。
  これらの活動を通して、アジア・アフリカ地域のFSを拠点として、現場における第一線の研究と教育を融合させながら推進する体制が我が国ではじめてスタートすることになった。アジア・アフリカ地域に関する植民地時代の資料などの蓄積が乏しい我が国の研究者が、地域研究の分野で世界の先端に立つには、自ら収集した一次資料や現場体験にもとづく研究が有効であり、FSを拠点とした臨地教育・研究の推進によって、その体制が確立されることになる。
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 II 統合情報化部門

  統合情報化関係では、FSにおける教育・研究に対する支援と、国内外の地域研究に関する情報及びネットワークの拠点としての機能をあわせもつ「地域研究統合情報化センター」(仮称)の設立準備をすすめるとともに、この新しいセンターが担うことになる様々な機能を具体化する作業をおこなってきた。これまでの主な実績としては、まず、情報・ネットワーク関係では「地域研究統合情報化センター」を結節点とする各種のコミュニケーション・モジュールの核となるサーバーの導入や、フィールド・ステーションおよび学内外の研究者、学生との円滑なコミュニケーションをはかる機器等の整備があげられる。研究資料の収集関連では図書7,500冊、マイクロフィッシュ1,500枚、マイクロフィルム600リールを購入するとともに、地域研究資料のデータベース化、デジタル化を推し進めた。
  また、出版物による広報を企図する代わりに、平成15年4月21日にはホームページを開設して21世紀COEプログラムの活動状況や教育研究成果等のリアルタイムな発信に努めるとともに、10月には当初計画を1年前倒しして、地域研究者間の情報交換と交流を促進する月刊メールマガジン『アジア・アフリカ地域研究情報マガジン』(通称IAS-INFOM)を発刊しAすでに6号(2004年2月現在)を発刊している。その他、多元的な地域研究資料・情報の統合的な蓄積、管理、公開のためのメタ・データベース・システムの開発をおこなった。これらの活動を通して、アジア・アフリカ地域に関する多元的資料の収集・整理・発信、及び国内外の研究機関及びFS等を結ぶ研究ネットワークの機能を有する、アジア最大の情報・ネットワーク拠点の形成に向けて着々と整備を進めるとともに、本計画の成果を国内外に向けて発信する体制が整備されつつある。
  さらに本計画では、統一テーマ「地球・地域・人間の共生」を設定し、これに関わる4つの問題群に沿った研究会を組織し、そこに臨地調査に携わる大学院生を効果的に参加させる仕組みを整えた。これまでに本計画の事業推進担当者が中心になって、合計50回の国内シンポジウム・研究会と、4回の海外ワークショップないしセミナーを開催してきた。今後は、臨地調査と研究会活動を連携させながらさらに成果を積み上げ、アジア・アフリカ地域研究における先導的研究者を育成していく計画である。
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 III 教育活動実績
(1)大学院生の派遣とオンサイト・エデュケーション
  大学院アジア・アフリカ地域研究研究科在籍の予備論文修了者(博士後期課程相当)を、アジア・アフリカ各地に設けられたフィールド・ステーションに派遣し、その周辺における地域研究のフィールドワークを中心としたオンサイト・エデュケーションを実施した。派遣学生は、所定の応募様式(申請書)による研究科内公募にもとづいて審査をおこない、選抜した。支給対象は旅費(滞在費)の一部とし、その額は派遣地域の実情に応じて月額10-20万円の範囲で決定した。これまでの2年間に延べ52人の大学院生をアジア・アフリカ各地のFSに派遣した(詳細については、フィールド・ステーション部門の派遣者リストおよびフィールドワーク報告を参照)。
  なお、オンサイト・エデュケーションのためには教員も延べ27人派遣しているが、科学研究費補助金〈国際学術〉等による渡航時に臨地教育に従事する教員も多く、当プログラムの支援だけがオンサイト・エデュケーションに向けての教員派遣の全容を示しているわけではない。

(2)若手研究者の派遣
  博士号取得者もしくはこれと同等の研究能力を有する若手研究者を学内外からの公募によって採用し、主として海外FSにおける臨地研究および臨地教育の補助に従事させた。旅費のほかに、賃金(月額20万円ほど)を支給。削減された予算の執行において、大学院生派遣をより重視したことから、若手研究者の支援は当初計画より縮小せざるをえなかったが、これまでに3名を採用している。このうち、長期に派遣された若手研究者の活動例については、HP中の大西(ミャンマーFS)生方(ラオスFS)を参照。

(3)若手研究者の採用と国内における研究支援
  博士号取得者を対象に、主として、地域研究関係のデータベースおよびメタ・データベースの作成など、「地域研究統合情報化センター」関係の研究開発に従事する若手研究者を1名採用した。助手相当の給与を支給している。

(4)若手研究者・大学院生を中心とする国際ワークショップ、セミナーの開催
  エチオピアで開催された国際ワークショップの参加者に対し、旅費(滞在費)の一部(10-20万円)を支給。受給対象者は、研究科内公募により、これまでの研究内容、ワークショップにおける発表予定タイトルなどを審査して選別した。

  以上のような、FSおよびそれを支援する「地域研究統合情報化センター」の機能を活用した教育活動により、フィールドワークを中心とする臨地教育の体制が整備されつつある。また、これらの成果として、この2年間に11名(14年度2名、15年度9名)の博士学位取得者(予定)が生まれている。

 IV 総括

  本計画では、大学院生の参画にとくに力をいれており、これまでに延べ52人の大学院生および延べ27人の教員を海外のFSに派遣してオンサイト・エデュケーションをおこなったほか、本計画の担い手として学内外から3名の若手研究者を公募等によって採用している。また、国内外で開催されたシンポジウムやワークショップなどに対しても、企画段階から大学院生・若手研究者の積極的参加をもとめて、国際的な場で活躍できる人材の育成に努めている。さらに、これまでの科研費などによる研究の成果の社会に向けての発信として、HPの活用や一般向けのインターネット連続講座などを通じて、研究成果の社会的還元を推進している。科研費プロジェクト成果のより専門的なレベルでの社会的還元として、近刊予定のものとしては、太田至他編『遊動民 アフリカの原野に生きる』(昭和堂、2004・3)や、加藤剛編『変容する東南アジア社会 民族・宗教・文化の動態』(めこん、2004・5)がある。
  以上のように、本計画においては、若手研究者、大学院生を効果的に計画に組み込みつつ、当初の目的を順調に遂行している。また、ボトムアップの予算編成と途中でのチェックによる再配分を通して、常に経費の効果的・効率的な使用に努めている。毎月1回定期的に、主要な事業推進担当者による「執行会議」を開催し、その議事録を関係者に配信するなど、緊密な連絡と調整を図っている。なお、執行会議のダイジェスト版は、「執行会議だより」ないし“What’s New from the Secretariat”としてHPで閲覧可能である。さらに、本計画による活動状況や研究成果などについては、英文・和文からなる詳細な情報をHPに掲載するとともに、月刊のメールマガジンを通してその更新情報を逐次伝えるなど、リアルタイムの情報発信に努めている。