ワークショップ

スタディツアー報告「オモ川の思い出」

孫暁剛(日本学術振興会外国人特別研究員)

「少しでも水が流れているならいいなぁ!」北ケニアの半砂漠草原でラクダ遊牧を調査しているとき、涸れた川床を通る度に私は切実な気持ちでそう思った。東アフリカ乾燥地域に住む遊牧民は、水を求めてときに何日も移動をしなければならない。川に水が流れるのは、雨季に上流の山岳地帯に雨が降った後の2,3日だけ。一年中「水がある」川のそばに住んでいる人々はどんな暮しをしているのだろうか。思いつくと見に行きたくなる私は、今年2月スタディツーアの機会に恵まれ、エチオピア南部のオモ川流域で調査をしているS君に同行した。

「暑い!」オモ川下流の中心地であるオモラテ町に入ったとき、私たちを迎えてくれたのは猛烈な暑さだった。風が全くなく、灼熱の太陽が砂まじるの白い地面をフライパン化させている。S君の知人を訪ねて町の中央通り沿にある一軒の家に入ったときのことだった。「川は家の後にあるよ、見たいか」とS君が静かに言った。私はおどろいた。念願の川がこんな近いところにあるとは思いもしなかった。

家の後ろのドアを開けると、高さ約10メートルの崖の下に幅100メートルほどある大河が静かに流れていた。一人の男が岸辺で水浴びをし、一本の大木をくりぬいてできたカヌーが、人々をのせてゆっくりと横断していた。一瞬、炎天下にいることが忘れるほど、涼しげな風物誌だった。

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オモ川はエチオピア高原を発し、南下して乾いた低地平原を縦断しケニア北部のトゥルカナ湖に流れる大河だ。川沿いに多くの民族が多様な生業を営んでいるが、この下流域はおもに半農半牧のダサネッチの人々が住んでいる。S君の解説を聞きながらダサネッチの村へ向かう。

オモ川は毎年3−5月の雨季に氾濫するそうだ。水が引いた後、ダサネッチの人々は広い氾濫原を利用してソルガムをはじめさまざまな作物をつくる。私が訪ねた2月は、ソルガムを二回目に収穫する季節だ。川沿いのいたるところに収穫して円錐型に束ねたソルガムが置いてある。ソルガムは脱穀し、草をボール型に丸めた貯蔵庫に入れて、四本の木で支えた高台の上に保存する。畑から出ると、潅木草原にたくさんのウシ、ヤギ・ヒツジが放牧されているのが見える。オモ川の水がいつでもいくらでも飲めるから、家畜たちも幸せそうだ。

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夕方、ダサネッチの村から煙があがった。ウシ囲いに溜まった牛糞を集めて燃やし、ダニなどの害虫を駆除しているそうだ。夕日がやがて地平線の向こうに沈み、煙は青白い夕靄になって村全体を包んだ。村人と雑談するS君の隣にウシの皮を敷き、私は横になって人々の話す声、子供の泣き声、家畜の鳴き声を聞いていた。ふっと目が覚めると、東の空に明るい満月が昇っていた。

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