フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2004年2月5日〜2月22日, 派遣国: タンザニア
(1) タンザニア・ゴゴ社会における階層構造の動向−人々の牧畜への関わりかたの多様化をめぐって−
長谷川竜生 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: タンザニア,ゴゴ,農牧複合,経済的格差,家畜の委受託制度


放牧中に水場に集まってきた牛群
(2) タンザニア・ゴゴ社会における農村社会内部の経済的格差の実態とその力学の解明

(3) 報告者は、タンザニア・ゴゴ社会における経済的格差の動態について、ドドマ州ドドマ・ルーラル県チパンガ郡チパンガB村で調査を続けてきた。ゴゴ社会では農牧複合型の生業が営まれているが、個人が所有する牛の頭数には大きな格差がある。
  これまでの調査では、牛の所有頭数によって調査村の住民を特上層(251頭以上)、上層(101〜250頭)、中層(51〜100頭)、下層(1〜50頭)というグループに分けたうえで、2001〜2003年に格差の構造がどのように変化しているか追跡してきた。この3年間の変化としては、上層が牛を増やして特上層が生まれている反面で、下層は牛を減らしており、特上層と上層への牛の偏在化が進行している。
  2004年2月5日〜22日に実施した調査では、牛の偏在化が進行した経緯を明らかにするために、各グループに属する住民の家畜飼養に関する事例を収集した。特に、所有する牛を増した/減した経緯と、他階層の住民との牛のやりとり(交換、売買、委受託)に注目した。その結果、以下のことが明らかになった。

  1. 特上層は、生業としての牧畜に家畜商などのビジネスを組み合わせて上層と差異化していった。家畜商とは、地元の住民から家畜を買い付けてきて、より高い価格で他地域の家畜市や大都市で売却するビジネスである。これは地域間の価格差、季節間の価格差、肥育による利益などを見込んだものであるが、見込み違いで損をすることもあり、高い専門知識や経営感覚を必要とする。このため特上層は、有能な働き手を求めて親族内だけでなく親族外からも人材を登用している。つまり、家畜商のノウハウは、親族内で独占的に蓄積されるものではなく、親戚外からも参入する機会が開かれている。これを考えると、特上層が親族内だけで一人勝ちを続け、長期的に牛の偏在化を進行させる可能性は低い。
  2. 中層と下層が牛を失うと、再び牛を所有することは少ない。これは、牛の盗難にあうリスクや、現金に換算した家畜飼養の経済性を重視するようになったこと、いつでも農村外就労に行ける環境を維持したいという動機などが関係している。中層と下層は、現状では特上層と上層の牛を受託することで放牧の労働力を担っているものの、一方では新しい生業のありかたを模索しつつあるという、きわめて流動的な存在と考えられる。
  3. 1. と 2. を考えると、ゴゴ社会が階層化する可能性は低い。むしろ、中層と下層の流動性が、どう変化するかということが、今後の経済的格差の構造を決定する要因になると考えられた。

 
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