(3) 今回の現地調査では、2004年4月より2年間を予定している定着調査の候補地を選定する作業を行った。マレーシア半島部スランゴール州カジャンの近郊にある約60のマレー農村を網羅的に見て回り、生業形態や居住形態から村の歴史的概況を推察した。さらに興味を持った村では、年配者や女性に聞き取り調査を行った。全渡航期間は2003年10月13日から12月21日であるが、このうち約1ヵ月半を調査地の選定に充てた。
一般に、半島部マレーシアにおけるマレー農村は、近年大きな社会変容を経験したといわれている。これは1970年代に導入された「新経済政策(いわゆる、マレー人優遇政策)」によるところが大きい。元来、農村部に居住し、小農ゴム栽培や稲作を主な生業としていたマレー人だが、この政策によって就業や教育機会において優遇的措置を享受し、都市部へと移住するようになった。今回のマレー農村における調査では、稲作に代表される伝統的な生業活動の衰退、現金収入の増加とこれに伴う家族形態の変化といったことが社会変容の一端として明らかになった。また出産に関しては、病院出産が主流となっているものの、伝統的産婆による産後の母体マッサージなどは依然として盛んであることが分かった。