フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年9月27日〜2004年9月30日, 派遣国: エチオピア
(1) 音楽創作プロセスに関する人類学的研究:エチオピアのアズマリとラリベロッチのパフォーマンス
川瀬慈 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: アズマリとラリベロッチ,エチオピア,相互行為,創作プロセス,社会的文脈


新郎新婦の到着を待つ結婚式場において演奏を行うアズマリの男女(2004年4月ゴンダ−ル)。

早朝に民家の軒先にて斉唱し、祝福の言葉を与えるラリベロッチ夫妻とその息子(2004年5月ゴンダ−ル)。

映像を活用した分析。自らの音楽活動の様子をみるラリベロッチとその家族(2004年7月ゴンダール)。
(2) 派遣者は2001年より継続してエチオピア北部の都市ゴンダ−ルにおいてそれぞれアズマリとラリベロッチと呼ばれる血縁を紐帯にした音楽職能集団の人類学的調査を行ってきた。アズマリは、馬の尾の繊維を縒り合わせた弦とヤギの皮を貼った共鳴胴からなる楽器マシンコを奏でうたい、アムハラ人の儀礼や生業の場、または酒場などの雰囲気を盛り上げる。一方のラリベロッチは、早朝に男女のペアで民家の軒先において斉唱を行い、人々に祝福の言葉を与え、喜捨を受け取る。
   アフリカ音楽に関わる研究において、音の分析や器楽の分類に関わる調査研究が蓄積されてきたのに対し、音楽を担う人々やそれを享受する聴衆、音楽が演奏される社会的文脈を視野に入れた音楽パフォーマンスの実態に関する研究は少ない。本研究では、アズマリとラリベロッチの両者によってパフォーマンスが行われる実際の場を、社会的な文脈の中に位置づける。そしてパフォーマンスを、聴衆との相互行為のなかで絶え間なく変化しつづける創作過程のなかにあるものとしてとらえ、ミクロレベルの観察に基づき、その創作過程を記述・分析していく。

(3)  今回の調査期間中、派遣者は様々な状況において演奏がおこなわれる場をビデオカメラによって撮影し、その映像を再生し、被写体となった人々に直接見せて対話しながら、調査者の分析と被調査者の見解を比較して分析を行った。その結果創作過程に関して以下の点を明らかにし、今後の方針を考えた。

  1. 定型詩、即興詩にかかわらずアズマリがうたう際、または聴衆が自作の詩をアズマリに投げかけてアズマリに復唱を求める際、歌詞には“bet meta”とよばれる押韻が求められる。さらに、聴者・奏者ともに押韻の有無を歌詞が「成立する/成立しない」という評価のキーポイントとしてみなしている。よって「うたの意味」だけでなく歌詞に求められる音韻上の技巧にも留意してパフォーマンスの創作過程を理解していく必要性がある。
  2. ラリベロッチは、民家の前で歌い始める前に、近所の人々にその家の主人の名や職業、宗教を聞き出し、それに歌詞の内容や祝福の言葉をあわせる。同様にアズマリも聴衆の名前・出身地・職業などを聞き出し、それらの情報を詩の中にとり込んでうたう。彼ら自身が、「取材」によって社会的文脈を把握し、聴衆との相互行為を通してパフォーマンスを創作していくといえよう。
  3. アズマリとラリベロッチはパフォーマンスをおこないながら、隠語によるコミュニケーションを盛んに行っていることが明らかになった。その隠語は聴衆にはアムハラ語の歌詞のように聴こえ、聴衆に聞かれてはいけない情報が演奏の場でやりとりされていることを示している。今回採集した両集団の隠語によるコミュニケーションの実態と機能に関して4月に国際学会において報告する予定である。

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ホームパーティーにおいて演奏するアズマリの夫婦。
二人の女性が演奏にあわせて踊りだす(ゴンダールにて)。

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新年に家々を訪問し、門付けを行うアズマリの集団。玄関付近において、
彼ら特有の隠語によるコミュニケーションがみられる(ゴンダールにて)。

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ザール憑依儀礼において精霊コレを呼び寄せるアズマリ男性。
霊媒に憑依後、アズマリは霊媒を通してなされる精霊の宣託を復唱する(ゴンダール郊外アゼゾにて)。

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