(3)
今回の調査期間中、派遣者は様々な状況において演奏がおこなわれる場をビデオカメラによって撮影し、その映像を再生し、被写体となった人々に直接見せて対話しながら、調査者の分析と被調査者の見解を比較して分析を行った。その結果創作過程に関して以下の点を明らかにし、今後の方針を考えた。
- 定型詩、即興詩にかかわらずアズマリがうたう際、または聴衆が自作の詩をアズマリに投げかけてアズマリに復唱を求める際、歌詞には“bet meta”とよばれる押韻が求められる。さらに、聴者・奏者ともに押韻の有無を歌詞が「成立する/成立しない」という評価のキーポイントとしてみなしている。よって「うたの意味」だけでなく歌詞に求められる音韻上の技巧にも留意してパフォーマンスの創作過程を理解していく必要性がある。
- ラリベロッチは、民家の前で歌い始める前に、近所の人々にその家の主人の名や職業、宗教を聞き出し、それに歌詞の内容や祝福の言葉をあわせる。同様にアズマリも聴衆の名前・出身地・職業などを聞き出し、それらの情報を詩の中にとり込んでうたう。彼ら自身が、「取材」によって社会的文脈を把握し、聴衆との相互行為を通してパフォーマンスを創作していくといえよう。
- アズマリとラリベロッチはパフォーマンスをおこないながら、隠語によるコミュニケーションを盛んに行っていることが明らかになった。その隠語は聴衆にはアムハラ語の歌詞のように聴こえ、聴衆に聞かれてはいけない情報が演奏の場でやりとりされていることを示している。今回採集した両集団の隠語によるコミュニケーションの実態と機能に関して4月に国際学会において報告する予定である。