フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年10月24日〜12月23日, 派遣国: タンザニア
(1) タンザニア南部高地における在来農業の展開に関する農業生態学的研究
近藤史 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 東アフリカ,在来農業,生業の変容,谷地耕作,アグロフォレストリー


チャマの作業風景(種まき)
酒をふるまうムゴーウェ主催者。参加者は酒瓶を持参する。

ムゴーウェの終了後、ふるまい酒を片手にくつろぐ男達
(2) 東アフリカ・タンザニア南部高地に暮らす農耕民ベナは、近年の社会的・経済的変化に対応し、在来農業のなかで新しい農法を創出してきた。 本研究は、新たに創出された農法について、創出過程、生態系への影響、持続性などを農業生態学的に解析し、同時に、それがベナ社会へ与える社会的・経済的影響について検討することを目的とする。
  ベナは、雨期には斜面地を、乾期には谷地を利用する独自の在来農業を発達させ、従来その両方で焼畑農耕をおこなってきた。しかし現在、斜面地では、生長の早い樹種を導入して造林型の焼畑をおこない、谷地では、排水の強化による冠水地の耕地化と、化学肥料の導入による連作への試みに成功している。ベナは在来農業を営むなかで、農法を自ら革新することで人口圧の高まりによる休閑地不足を解消し、また現金収入の道をひらき、社会や経済の変化に対応している。こうした在来農業の動態を捉えることは、「伝統的な」在来農業への固執や近代農業の押し付けとは異なる、アフリカ農業の新たな展開・発展の可能性を模索するうえで意義があると考える。

(3) 2003年10月24日から2003年12月23日までの期間、タンザニア南部のイリンガ州ンジョンベ県キファニャ村において現地調査をおこなった。今回の調査では、1)農作業の共同労働と、2)造林型焼畑をおこなう際にみられる植林伐採跡地の貸し借り、の二点について実態を明らかにした。

  1. 調査地において現在おこなわれている共同労働はふたつに大別される。ひとつは従来からおこなわれてきた酒のふるまわれる共同労働、ヒサンブラ(hisambula)とムゴーウェ(mgowe)である。ヒサンブラは親族および姻族を中心に10人前後でおこなわれる小規模なもので、ひとりあたり1リットル程度の酒がふるまわれる。ムゴーウェは親族および姻族のみではなく地縁関係のある人々も加わり、20人以上、ときには30人以上でおこなわれる大規模なもので、ひとりあたり2リットル程度の酒がふるまわれる。ヒサンブラとムゴーウェでは毎回のメンバーは固定されていない。しかし、参加者と主催者の間につくりだされる「貸し・借り」のような関係に基づいて労働力が交換され、その交換は同種労働間のみならず異種労働間でもおこなわれる。もうひとつはタンザニア独立以降の社会主義政策下ではじめられた、酒のふるまわれない共同労働、チャマ(chama)である。チャマは血縁または地縁で結ばれた特定のメンバー内で、ある農作業についておこなわれるローテーションワークであり、グループによって構成メンバーは二人から十数人と様々である。
  2. 造林型焼畑では、ブラックワットルを薪炭用に、またはマツを製材用に造林して伐採、利用した跡地に焼畑を造成する。しかし、これらの林の所有面積には世帯間で偏りがあり、伐採跡地の貸し借りが頻繁におこなわれている。所有面積の偏りは1974年におこなわれた集村化に起因しており、一般に集村化以前から村内に居住していたリネージの構成世帯が貸し手、それ以降に村内へ移住してきたリネージの構成世帯が借り手となっている。

  今後は上記の結果をふまえてベナの在来農業の展開と農村社会の関わりについて検討していく。

 
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