(3) 今回の現地調査は、6月、7月、9月、10月、12月に、Savannakhet県Champhone郡のNK村とBK村で行われた。両村は南北に続く一連の斜面上に約4km離れて隣接する。低みのNK村から高みのBK村中心部までは水田が広がり、BK村中心部より高みでは焼畑が行われ、水田と焼畑の境界域には湧水が点在している。そこで両村の土地利用において最も比重の高い水田域の植生調査を行った。
調査の結果、両村の合計で204種の草本植物が記録された。日本全土の水田雑草が約190種(沼田・岩瀬、2002)とされることと比較すると、わずか2カ村で得られたこの数値は大きい。また木本植物は同120種であった。以下、このような種の多様性を成立させている要因を考察する。
まず、多様な水田立地と水田域の微地形による影響である。水田の立地は村人によって4タイプに、土質は5タイプに区分され、その組み合わせは合計11タイプが確認されたが、そのうち特定のタイプにのみ分布する種が観察された。また、水田面、畦畔の法面と上部平坦面、シロアリの塚など微地形による植物分布の差異も見られた。次に、水田開墾前の原植生の要素も多く見出された。Peltophorum
dasyrrhachis、Pterocarpus macrocarpus など林地の樹木のほか、Helicteres
spp.、Habenaria rostellifera など林床の低木や草本、Drosera spp.、Stylidium spp.、Utricularia spp.などの湿原植物が観察された。中でも、Drosera
indicaとStylidium spp.は「Flora of Thailand」において希少種と記されており、本調査地がその貴重な生育地の一つとなっていることが明らかとなった。そして人々の生業活動による影響も大きい。稲作に伴う耕起、湛水や畦畔の補修が水田に特有の環境を作り出し、また収穫後の牛や水牛の放牧とあわせて、単調なイネ科やカヤツリグサ科の草原への遷移を妨げていると推察された。さらに、人々によるこれら水田野生植物の採集・利用に加え、野生植物の保護や栽培化、移出植物の利用など、人と植物の多様な関わり方が植生分布に影響を与えていることも明らかとなった。
最近ラオスの生物資源に関して、人為の影響の少ない原生林の保全の必要性がよく指摘される。一方で本調査結果は、水田のような里地における生物資源の評価もそれと同様に重要であろうことを示唆した。
(参考文献)
沼田眞、岩瀬徹 2002. 「図説 日本の植生」 pp 240-241.
Santisuk, T. et al. 1970-. “Flora of Thailand”Vol.2, pp 276-277., Vol.5,
pp 68., RFD, Bangkok.