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今回の現地調査は、1. セントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブからの移住先の再定住地であるコエンシャケネ、2.
コエンシャケネと同様にグイ/ガナ・サンが居住する他の再定住地ソメロとケケニェにおいて行った。1. は再定住後3年目に実施した調査をもとに定点的な調査を続けることで、再定住後の生活の再編過程を長期的な視点で解明することを目的とした。2.
は、グイ/ガナ・サンの再定住をめぐるこの数十年の歴史を再構成し、コエンシャケネの事例と併せて、再定住以前の生活環境、再定住時期、再定住地の生態・社会環境の違いなどが変容過程に与える影響を考察することを目指した。調査の結果は以下のとおりである。
- 派遣者のこれまでの研究から、賃労働が主要な経済活動となる再定住地に対して、その周囲の原野に拓かれた居住地では、狩猟採集、牧畜、農耕が主要な生業となり、両者の間には交換関係や頻繁な移住がみられることがわかっている。今回は、前回の調査を継続、発展させるために、住民間の食物分配や再定住地内外の居住状況の変遷に関するデータを収集した。その結果、調査対象世帯の分配相手は3年前と大きな変化はなく、住民間の社会関係の親疎は長期的に安定していることが明らかになった。また原野に居住する人々の顔ぶれが固定化しつつあり、それぞれの生業活動に特化する傾向がみられた。また村議会議員、チーフの選出過程などに関する事例収集とその歴史的背景の聞き取りを行い、コエンシャケネの政治的過程において、出身地域や近隣の農牧民ツワナやカラハリとの系譜関係が重要視されつつあることがわかった。こうしたことから、従来は比較的均質な生活をおくってきたサンのあいだで差異化が進行していることが指摘できる。
- ソメロはセントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブの北部、ケケニェは南部に位置し、コエンシャケネ住民の多くが再定住以前に住んでいたカデ地域からは、それぞれ250キロメートル以上離れている。住民の移住過程に関する聞き取りから、これらの再定住地に住むグイ/ガナ・サンは、1930から40年代にリザーブの外側にあるツワナやカラハリの集落やキャトルポストの周辺へ移住し、近年再定住地に移住したこと、コエンシャケネの住民と近い親族関係を持っていることなどが明らかになった。両者とも、再定住地では他地域出身のサンと混住しているが、居住パターンや集落内の政治的過程に関する調査からは、互いに同化しあうことはなく、依然として再定住以前から続く関係が非常に重要視されていることがわかった。またソメロにおいては、コバ(||koba)、ナベコー(!nabe-kx’oo)、タバ(≠haba)といった、これまであまり調査報告のない言語集団(ただしグイ/ガナ・サンに近縁)が居住しており、それぞれの再定住以前の生活圏や移住過程、他の言語集団との接触状況などの情報もあわせて収集した。
今後はこれらの調査結果についてさらに検討し、サン社会が再定住のインパクトによって、既存の文化・社会を再編しつつ、ポスト狩猟採集社会へ移行する過程を考察する。