渡航期間: 2004年1月7日〜3月6日, 派遣国: インドネシア |
(1) インドネシア・バリ文化における伝統の発展:
ギアニャール県ウブド村とブレレン県ブンクラン村のガムラン音楽の事例より
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真崎惠子 (東南アジア地域研究専攻) |
キーワード: ガムラン音楽,kuno,modern,バリの伝統文化,発展 |
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ブレレン県ブンクラン村の寺院儀礼で演奏するガムラン楽団 |
(2) インドネシア・バリ島は愛媛県ほどの面積しかない小さな島だが、そこには何万とも言われる寺院が存在する。毎日、必ずといっていいほど村のどこかの寺院で儀礼が執り行われ、青銅打楽器編成のガムラン音楽が鳴り響いている。このようにバリ島には非常に特色豊かな伝統文化があり、その文化は近代的生活様式に見られるような合理化にさらされることもなく、日々いっそう複雑化し、発展している。
長期滞在調査(2001年4月-2002年1月)において、バリ・ガムラン音楽に焦点を当てて調査を行ったところ、バリの伝統の発展には、大きく二つのパターンが存在することがわかった。観光産業の盛んな地域では、新しいガムラン音楽の創造活動が盛んで、常に新しいガムラン音楽が作曲・演奏されている。これらの新しい創作のほとんどが、観光客の見世物として披露されている。他方、観光産業がほとんど見られない地域では、新しいものを創造することもなく、従来から継承されている古典的なガムラン楽器が使用され、その楽器の演奏目的はもっぱら寺院儀礼のみである。ここで筆者は、これらの伝統文化のあり方を、最新的(modern)嗜好と古典的(kuno)嗜好と捉えた。毎年6月頃に開催されるバリ島あげての大イベント、バリ芸能祭では、ガムラン音楽のための新曲と古典的なガムラン音楽やガムラン楽器が披露される。ここで披露される新曲は、複雑なメロディと美しいスペクタクルな舞踊を伴っていることが多い。それらは、従来の伝統的スタイルからかけ離れているように見える。しかしながら、kuno的スタイルを披露することによって、modern的なものだけがバリ文化の主流を成しているのではなく、「古い伝統」も文化の一部として受け継がれているということをも表現している。そこで、筆者は、kuno的スタイルとmodern的スタイルとの間には連続性があり、バリの音楽が両者の相互関係の中で展開していることを強調したい。
本論文では、kuno的嗜好の強いブレレン県ブンクラン村とmodern的嗜好の強いギアニャール県ウブド村でのガムラン音楽活動に焦点を当てて、村におけるガムランの社会的役割の変遷と演奏されるガムランの音楽学的分析を通して、これら2村において音楽の嗜好に違いが生じた背景について明らかにする。それにより、バリ文化の多面性と動態のあり方を理解する。かつ、上記の違いがブンクラン村とウブド村のガムランのkuno、modernの発展・継承にどのような影響を及ぼし、それらの関係がバリ文化として、どのように変化していくのかを明らかにすることを目的とする。
(3) 今回の調査では、特にウブドにmodernな動きの中心にあるバリ文化と、ブンクランに代表される古典的kunoを維持するものとがメディアにおいてどのように表象されているか、バリ・テレビに焦点を当てて検証した。2002年5月にバリ島初の民間テレビ放送局、バリ・テレビが開設された。バリ・テレビは、バリ人が主体となって、バリのあらゆる情報を提供することを目的として設立された。開設当初、筆者はバリ各地の村々の儀礼・慣習等が頻繁に報道されるであろうと予期していた。しかし、実際に放送された番組を分析した結果、modernを代表し、バリ文化の最前線を担うことを自負するギアニャール県の儀礼主催者が、観光地として潤った経済力を背景に報道権を買い取り、メディアを媒体にして、大いに自文化を宣伝していた。他方、観光産業とかかわりの少ない地方のものは、ほとんど放送されていなかった。外国人の多くが語るバリと同様に、バリ人が制作したメディアの中でも、経済力の豊かな地域のmodernがバリ文化の代表として語られている。それが、バリ人が受け取る文化の情報についても、かなりの地方的偏りを作り出していることがわかった。 |
![](mazaki_2.jpg) |
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番組撮影中のバリ・テレビのカメラマン |
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