(3) 現地 調査はマラウイ湖中部西岸のンカタ・ベイ周辺で 2004年1月31日〜3月31日(現地離隊)の間に行なった。今回の派遣は博士論文に向けての最終調査として位置付けており、すでに収集したデータを活用した補足的聞き取りを中心とした。
- 漁撈活動にみられる秩序を動態としてとらえるために、それらの歴史的変遷に関する聞き取りを行なった。漁撈技術・組織および漁獲の分配・流通の変容は単線的なものではなく、市場経済の浸透や人の移動をともなった、複雑な過程であることが明らかになった。また、漁撈活動をめぐる紛争事例などの分析から、調査地では漁撈資源に対する明確な保有意識も、漁撈活動を調整するための意思決定のメカニズムも存在するという確証が得られた。
- 漁撈技術のなかで重要な位置を占める湖上空間認識に関する調査を行なった。調査地の漁撈者は湖上における自らの位置を陸上の 3対の目標物の配置を視認することにより把握していることがわかった。目標物は樹木や建物、山や河口などであるが、夜間は電灯や浜の定位置で焚かれる焚き火の明かりで代用される。湖岸からの距離は陸上の遠方の地形の見え方によって把握されている。湖上の主要な漁場14カ所を構成する湖上の60点と、その特定に用いられる目標物の位置を、GPSを用いて測定した。また、湖上での測定の過程をビデオに記録し、再生しながら聞き取りを行なうことにより、漁撈者が問題としている「見え」のより正確な把握を試みた。現在、これらのデータを用いて漁場図を作成中である。
- 先回までの研究成果をフィードバックしつつ、さらなる聞き取りを行なった。その結果、調査地では漁撈組織のメンバーシップや、漁撈資源をめぐる保有関係が、漁撈に関するある種の知識の占有を通じて構築されていることがわかった。漁期の設定や、漁場の排他的利用など、複数の漁撈組織にまたがる意志決定が、これらの知識にもとづいて行なわれていた。それらの知識を「知る者」にとってのみ、湖は「自分達のもの」となり、「知らない者」にとっては湖は「カミのもの」でしかない。調査地には在来の資源保有および管理システムは存在し、それは知識の保有と密接なかかわりがある。そしてそれゆえに、それらは「外部者」にとっては不可視となるのである。
カウンターパートらとのディスカッションより、このような状況がマラウイ湖岸の他の地域にもみられることが明らかになった。これらの成果がマラウイ湖における漁業政策に対して深長な意味をもつことは明白である。漁撈資源へのアクセスを規定するものとして在来知識が秩序化されている状況は、漁撈者達に閉じたものではなく、必然的に研究者や政府関係者などさまざまなアクターを巻き込んで展開していることに、我々は細心の注意を払う必要がある。