(3) 調査は2003年10月〜2004年1月の3ヵ月間、ダサネッチの村落でおこなった。調査内容と結果を以下に記す。
- 男女間や世代間における分業形態を定量的に明らかにするために、タイムアロケーションの手法をもちいて活動調査をおこなった。その結果、調査期間が作物の収穫時期であったこともあり、村のほぼすべての成員が農耕活動に従事しており、生業に関する男女間の活動内容には明確な分業は見られなかった。一方、それ以外の時間は男性が友人との会話や休息に費やしていたのに対して、女性は水汲み・薪集め・調理などの活動に従事していた。ただし女性でも成長した子供が2名以上いる場合は子供たちに指示を与えるだけで、残りの時間は家のなかなどで話をしながら家畜の皮なめしや縄作りなどをおこなっていた。また活動場所としては、成人男性はしばしば村外の友人のもとに出かけているのに対して、女性は町へ買い物に行く場合をのぞいて、ほぼ村内ですごしていた。
- さまざまな活動をおこなう社会集団やそれが営まれる空間領域がどのように認識・分類されているのかを明らかにするために、聞き取り調査をおこなった。ダサネッチ語で「物理的な家」(bil)を指す語の複数形(en)は地域集団(居住地域を共有し多くの儀礼をともにおこなう単位)や村落も意味する。また人びとは「わたしの人(びと)」という語をコンテキストに応じて、最小レベルでは一軒の家にすむ妻とその子供たちを、最大レベルでは同じ地域集団や世代組、父系クランに所属する人びとを指し示す語としてもちいている。つまり従来の研究ではもっとも「私的」/「公的」な活動を営むとされてきた領域や社会集団が同じ語で示されているのである。
今後は活動調査を継続して年間の変化を調べるとともに、世帯レベルで家畜の贈与や売買、居住地の移動などがいかなる過程を経て決定され、それが世代組や地域集団単位で営まれる活動にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにしていきたい。