(3) 現地調査は、2003年7月15日〜2004年3月31日にかけて、カメルーン東部州ブンバ・ンゴコ県に位置するミンドゥル村、レゲ村、ンドンゴ村及びジャー(Dja)川流域においておこなった。この地域は熱帯雨林帯に属しているが、乾季と雨季が比較的明瞭であり、12月中旬〜2月の大乾季、3〜6月の小雨季、7〜8月の小乾季、9〜12月の大雨季の4つの季節に分けられる。また、植生は熱帯半落葉性樹林で、構成樹種には落葉性の陽樹が多いという特徴がある。今回の派遣では、人間活動によって森林がどのような影響をうけ、その結果、二次遷移がどのように進むのかを推定することを目的とした。すなわち、1)現在の人々の生業活動と土地利用に関する参与観察、2)原生林、及び焼畑放棄後の二次林における植生調査、3)過去から現在までの土地利用の変遷に関する聞き取り調査、及びGPSを用いた過去の定住集落跡地のマッピングと植生調査をおこなった。
調査をおこなった3村では、ジャーコ(Djako)と自称する人々が農耕を基盤としつつ、採集、狩猟、漁撈といった多彩な生業を通して森からも多くの糧を得ながら暮らしている。また近年、現金経済の浸透とともに、換金作物としてカカオ栽培の重要性が高まっている。調査をおこなった3村は最近整備された道路沿いに連続的に分布しており、ジャー川に面したンドンゴ村(カメルーン・フィールド・ステーション所在地)がその道路の終着点となっている。道路沿いの集落を取り巻くように、焼畑、カカオ畑、Musanga cecropioidesの優占する休閑二次林が広がり、集落から遠ざかるにつれて原生林帯が多くなっている。原生林に分布する高木種としては、アオギリ科のTriplochiton scleroxylonやセンダン科のEntandrophragma cylindricum等があげられるが、特に優占する樹種は特定できない。これに対し、林床近くではバンレイシ科のMeiocarpidium lepidotum やクワ科のSloetiopsis usambarensisなどの低木種が頻繁に観察された。
聞き取り調査の結果、“Djako”とは「Dja川の上流(に暮らす人々)」を意味しており、彼らは現在の村から直線距離で約30km離れた上流地点から、川に沿って転々と村を移動してきたことが明らかになった。本調査によって、かつての定住集落跡地が20ヵ所、最も古い所では100年以上前に放棄されたと言われる定住集落跡地が確認された。また、彼らが狩猟・採集・漁撈をおこなうための活動域はさらに上流20数kmにまで及び、そこまで行くと、物質文化・建材として欠かすことのできないラフィアヤシの群生地帯や、樹皮が薬用として利用されるジャケツイバラ亜科のGilbertiodendron dewevreiの純林、ゾウをはじめとする大型獣が集まる湿地草原、漁撈キャンプを設けて季節的に利用する漁場など、多彩な環境が確認された。このように、Dja川沿いには様々な遷移段階、あるいは生態学的特色をもつ植生域が存在し、人々はそうした場所を個別に認識し、目的に応じて使い分けていることが明らかになった。
今後の調査では、Dja川流域に点在する放棄後年数の異なる集落跡地においてさらに植生調査をおこなうと同時に、地域の生態史に関する情報を収集し、人と森との相互関係についての通時的な理解を深めたい。そのうえで、カカオ栽培や道路の拡大、調査地近郊で進みつつある国立公園化などが人々の生業活動や森林利用に及ぼす影響について再検討を加え、森林生態系の理解に根ざした持続的利用に関する新たな知見を得ることを目的としたい。