フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年5月7日〜6月5日, 派遣国: インドネシア
(1) 熱帯泥炭湿地林における物質循環の不均一性に起因する植物種共存機構とエレベーションダイナミックス
嶋村鉄也 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: 熱帯泥炭湿地林,種共存,バイオマス,森林における生産と分解,養分含量


ひっくり返ったShoreaの板根

Swintonia glauca の板根
(2) 熱帯泥炭湿地林において泥炭の表面は多様な微少地形の不均一性によって特徴づけられている。それらの不均一性は数10cm〜数mの範囲に及ぶ。巨大な板根を持つ樹木はその地上部のバイオマスを支えるために多量の根をその地下に張り巡らせる。この根の構造が板根周囲の地表面を盛り上げ凸状の地形を形成する。また、無数の呼吸根(これらは冠水状態における根の呼吸を可能とするものだが)を持つ植物種がある。このような種はマウンドではない平坦な地形によく見られる。一方でその他の種は凸状地形によく見られることがある。本研究はこのような微少地形と植物群集の分布を明らかにするものである。

(3) インドネシア、スマトラ島、リアウ州クルムタン生物保護区において2003年5月に調査を行った。
  植物群集の空間分布パターン解析の結果、様々なタイプのハビタットは植物の分布を種の耐水性に従って規定していることが示された。例えば、耐水性の低い種は板根周囲の凸状地形に多く分布していた。また、その逆に耐水性の高い種はそのような凸状地形には少なく分布していた。
  また、各微少地形ごとの局所的な物質循環(イングロース法、リタートラップ、リターおよび材の分解実験)に関する調査を行った。その結果、異なるハビタットは異なる分解や生産によって維持されていることが示された。また、生産と分解のバランスの変化は微小地形の変化をもたらす。例えば、板根を持つ個体に対する攪乱は地上部・地下部の生産活動が止まることに起因するマウンドの沈降と消失を意味する。逆に、板根を持つ巨大な個体の定着は地上部・地下部における生産量の増大に起因するマウンドの生成を意味する。地表面の動態が時間的、空間的スケールに沿って植物種の種共存機構を決定することが示された。マウンドの生成と消失が、それぞれ耐水性の高い種と低い種に対する更新ニッチを提供していることが示された。

 
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