フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年12月7日〜2004年3月15日, 派遣国: ウガンダ
(1) 東アフリカ小農社会における、農業の商業化にともなう社会関係の再編
白石壮一郎 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 商品化,共同労働,財産の共同管理, 財産の権利移転, 争議の過程


土地売買のさいに、隣人立ち会いのもと両者のあいだでかわされた「合意書」

親族立ち会いのもと、兄弟間で土地(トウモロコシ畑)の境界を確定する
(2)  この研究の目的は、東アフリカの小農社会における農業の商業化が、人びとの社会関係にあたえている影響を明らかにすることにある。とくに、財産として重視される家畜や土地に対して、人びとはどのように権利を主張し、それがどのような社会関係の表現になっているか、という点に注目する。
  調査対象であるウガンダ東部の山地農耕民サビニの社会は、1950年ころにはウシとヤギの飼養を生業の柱とするかたわらで、モロコシやシコクビエなどの雑穀、そしてヤムなどの根菜を栽培する農牧民的な生活を営んでいた。しかし、以後トウモロコシとバナナの栽培が徐々に普及していき主食として取って代わり、とくに1990年代以降は、バナナとトウモロコシは市場向け出荷がさかんになった。現在では村の半分以上の世帯が100kg以上のトウモロコシを出荷している。
  このような「農業の商業化」の小農社会への影響を理解するためには、イスラム教やペンテコステ派キリスト教の普及、政情不安定期における近隣牧畜民からの武装牛略奪の激化、そして貨幣経済の浸透などの影響のもとで、20世紀後半期に激動してきた地域史の文脈の中で、人びとがどのように社会関係を再編していったのかを検討しなければならない。
  具体的には、 1.家畜の共同管理、2.耕地での共同労働、3.耕地としての土地の相続・売買・争議の3つのトピックに関して、現在の人びとの社会関係の詳細な記述と、聞き取り調査と文献を利用した地域史のアウトラインの再構成とによって検討し、人びとの社会関係の再編のありかたを分析していく。

(3) 今回は、上記のうち 3.のトピックに関する調査をすすめた。現地調査は、東アフリカのウガンダ共和国、カプチョルワ県にて、2003年12月7日より2004年3月15日までの期間におこなった。
  調査地においては、相続、売買、賃貸などの土地処分の権限は男性世帯主に、日常的な利用権はその妻である女性に属している、という説明が一応は可能である。しかしながら、ある人の土地に対する権利は、常にその人以外の何者か―キョウダイ、僚妻、親族、隣人、借地人―から侵犯される可能性にさらされている。「これこれの規範に従うべし」というような確固とした「土地慣習法」はない。この意味で、土地に対する権利は不確定であり、ある土地に対する権利を主張する人物が潜在的には複数存在しうるような状況である。したがって、土地相続の親族会議、土地境界を接した隣人同士の争議、地方裁判所における土地裁判などの局面で、各利害関係者によってそれぞれに当該土地に対する権利が主張されることになる。
  たとえば土地の「相続」に関して、人びとは、「父親から息子たちへ均分相続する」ように説明はするけれども、実際の相続の場ではさまざまな事情によってそれがそのとおりに達成されるとは限らず、むしろそうならないことのほうがおおい。その背景には、キョウダイ間の対立、複婚の場合は僚妻間の対立などがある。こうして土地をめぐる権利の問題は、それそのものにとどまらずに、世帯内の、親族間の、あるいは土地境界を接した隣人間のふだんの社会関係を反映した 問題として表現されるのである。
  今回の派遣では、村の世帯の土地利用、土地保有、土地入手方法の基本データだけではなく、そうした土地の争議の歴史の聞き取り、係争中の土地争議での議論の内容の把握をおこなった。今後はこれらのデータを分析し、調査地における土地に対する権利が実践的に獲得されていく過程を明らかにしていく予定である。

 
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