(3) 今回の調査では、同胞団の社会奉仕活動については、イスラーム医療協会を中心に調査を行った。同協会は、 1970年代のイスラーム復興高揚期に、同胞団系の医師を中心に医療奉仕活動を始めた。現在では、約20のクリニックを運営している。病院運営者や利用者へのインタビュー、および資料収集を行い、同協会の活動実態について明らかにした。また、ワサト党本部については昨年度の調査に引き続き、党首やその他メンバーとのインタビューを中心とするフィールドワークを行った。 ムスリムのみならずキリスト教徒も含む全エジプト人のための「イスラーム民主主義」を標榜するワサト党の理念について、詳しく調査することができた。この「イスラーム民主主義」の下では、宗教の差異ではなく、イスラーム文明に属するエジプト国民であることが重視され、全国民の自由と平等が唱えられる。ここには、エジプト国内の宗教対立を回避しつつ、イスラーム的諸政策を達成しようとする同党の組織理念が現れている。また、キリスト教徒もメンバーに取り込もうとする点においては、同胞団との相違を明らかにし、独自の活動を進めようとする同党の姿勢がうかがえる。 同胞団のような非合法組織としてではなく、 合法的な政党活動によってイスラーム復興を進めてゆこうとする同党の姿勢は、イスラーム復興運動の新たな展開の一端を示すものといえよう。