フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年8月1日〜2004年3月31日, 派遣国: エジプト
(1) 現代エジプトにおける中道派イスラーム復興の潮流―ムスリム同胞団をめぐる考察
横田貴之 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: ムスリム同胞団,イスラーム社会運動,イスラーム政党,法解釈の革新,民主主義

イスラーム医療協会ファールーク病院(2003.11.4 カイロ市マアーディー地区)

イラク・パレスチナ支援デモ(2003.9.28 カイロ市中心部)
(2)  博士論文においては、エジプト・ムスリム同胞団の思想と活動について、原典資料およびフィールドワークに基づく考察を行う。主な目的は、これまでほとんど論じられていない同胞団の実態について、動態的・包括的に明らかにすることにある。
  1928年にハサン・バンナーによって創設された同胞団は、中東地域で初めて大衆に対する「ダアワ(da'wa:イスラームへの呼びかけ)」を行い、大衆に根差した草の根型のイスラーム復興運動を展開した。20世紀前半の急速な発展の後、ナセル大統領による弾圧によって一時は消滅したとされたが、1970年代に復活を遂げた。現在のエジプト社会においてもその活動は活発であり、同国最大のイスラーム復興運動として多数のメンバーを擁し、医療、教育、相互扶助組織、出版などその活動は多岐に渡っている。穏健かつ段階的なイスラーム復興を志向する同胞団は、現代エジプトを代表する中道派イスラーム復興運動である。このように、同胞団のエジプト社会における重要性は大きいが、これまで同胞団に関する研究は少数に留まっており、更なる研究が望まれる状況にある。博士論文では、同胞団の基本理念であるダアワを鍵概念に同胞団の思想と活動について論究する。思想については、フィールドワークにおけるインタビューおよび文献資料によって考察する。活動については、同胞団系諸社会奉仕組織、そして元同胞団員を中心とするワサト党を中心にフィールドワークによって考察する。ダアワを軸に同胞団の思想と活動の動態的・有機的連関を明らかにし、同胞団の理解を深めることによって、現代エジプトにおける中道派イスラーム復興を考察するための新たな視座の提示を目指す。

(3) 今回の調査では、同胞団の社会奉仕活動については、イスラーム医療協会を中心に調査を行った。同協会は、 1970年代のイスラーム復興高揚期に、同胞団系の医師を中心に医療奉仕活動を始めた。現在では、約20のクリニックを運営している。病院運営者や利用者へのインタビュー、および資料収集を行い、同協会の活動実態について明らかにした。また、ワサト党本部については昨年度の調査に引き続き、党首やその他メンバーとのインタビューを中心とするフィールドワークを行った。 ムスリムのみならずキリスト教徒も含む全エジプト人のための「イスラーム民主主義」を標榜するワサト党の理念について、詳しく調査することができた。この「イスラーム民主主義」の下では、宗教の差異ではなく、イスラーム文明に属するエジプト国民であることが重視され、全国民の自由と平等が唱えられる。ここには、エジプト国内の宗教対立を回避しつつ、イスラーム的諸政策を達成しようとする同党の組織理念が現れている。また、キリスト教徒もメンバーに取り込もうとする点においては、同胞団との相違を明らかにし、独自の活動を進めようとする同党の姿勢がうかがえる。 同胞団のような非合法組織としてではなく、 合法的な政党活動によってイスラーム復興を進めてゆこうとする同党の姿勢は、イスラーム復興運動の新たな展開の一端を示すものといえよう。

 
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