報告
渡航期間: 2004年3月5日〜2004年3月18日    派遣国: ラオス、ミャンマー
  出張目的
  ラオスでの臨地教育とミャンマーでのワークショップでの発表「伝統的とは?」
  安藤和雄 (東南アジア研究所)

 

  活動記録
  3月5日(金)
  • 関空発から出発
      3月6日(土)
  • タイ国ウボンタニ、ラオス国サバナケート経由でラオス国サバナケート県チャンポン郡(Champon )に到着

      3月7日(日)
  • ASAFAS 院生のスラポンさん(平成15年度編学)の調査村カダン(Kadan)にて、臨地教育を行う。
      3月8日(月)
  • チャンポン郡農林局を CSEAS (東南アジア研究所)虫明悦生さん(東南アジア研究所研修員)、小林伸哉(神戸大学)さん、スラポンさんと訪問し、副局長以下職員と来年3月にチャンポン郡でラオス語による「在地の智恵や技術」を評価するワークショップを開催することと、チャンポン郡農林事務所のデジタル情報環境を整備し事務所をラオス・フィールド・ステーション・サバナケート分所として使用させてもらう協議を行い合意する。ビエンチャンへ移動する。

      3月9日(火)
  • ラオス国立大学農学部副学部長と農学部での2004年度(4月から)の21COEプログラムの活動について協議する。共同研究として (1) 農学部周辺の村での基礎的村落調査の開始、 (2) 農具の収集と作付体系に関する調査研究、 (3) 水産資源に関する調査を実施し、これらの調査研究の一部を学部生の卒業論文とすることが合意された。これらの共同事業については、 2004 年度もラオスで個人研究の調査を継続する虫明悦生さんが全般的に協力することと、小林伸哉さんが農学関係については積極的に共同研究に加わることが確認された。

      3月10日(水)
  • ビエンチャンからヤンゴンへの移動

      3月11日(木)
  • SEAMEO-CHAT 所長、副所長、担当者と3月 16 、17 日に開催されるワークショップに関する最終確認と打ち合わせ。

      3月12日(金)
  • SEAMEO-CHAT 所長、副所長、担当者と 2004 年度のフィールド・ステーションの活動について協議し、下記のように合意を得る。また、この日に在ヤンゴン日本大使館の文化担当部、 JICA 事務所を訪れ 21COEプログラムの活動の説明と 16 、17 日のワークショップについて説明した。
      3月13日(土)〜14日(日)
  • ワークショップの発表準備
      3月15日(月)
  • ワークショップ発表者と最終的な打ち合わせを行う。
      3月16日(火)
  • ワークショップ
      3月17日(水)
  • ワークショップ 夕方 ミャンマー出国
      3月18日(木)
  • 関空に帰国

     

      結果と進捗状況
     
    個人研究:「伝統的」とは何か?

      今回の出張の目的の一つには、 3月16、17日に SEAMEO-CHATで開催されたワークショップ「ミャンマーにおける農村社会の変容と在地の農業生態学的知識 : Change of Rural Society and Local Agro-ecological Knowledge in Myanmar 」(写真1)にてラカイン(Rhakain) 州でのこの数年間の調査研究の成果を取りまとめた「ラカイン州農村部における変容する伝統的作付体系ー農村開発研究における 『 伝統的 』 の意味づけー( Changing Traditional Cropping Systems in Rural Rakine State-Meaning of “Traditional” in Rural Development Study- 」の未発表論文を発表することであった。論文の構成は、 1.What is “ Traditional ” ? 、 2.Cropping Systems in Y Village (1)Agricultural land Use of Gwa Township (2)Agricultural Land Use and Cropping Pattern in Y Village (3)Rice Varieties and Agricultural Land Classification (4) Mode of Cultivation (5) Agricultural Tools drawn by Cow/Buffalos and Drawing Animals 、 3.Changing Traditional Agricultural Tools 、 4.Epilogue:Rice Ritual in Ywa Thit Kon である。
      以下は、発表の導入部分でもある 1. What is “Tradional”?  の要訳である。


    写真1 SEAMEO-CHAT 所長のワークショップでの開会の辞

     
    「伝統的」とは何か?
       2001年3月、近代品種と灌漑を用いた稲作はグワの街からタンデイの街までの国道沿いの耕地ではほとんど観察できなかった。沿道には、農業普及局によって近年導入された発芽してまだ間もない幼植物のケツルアズキ(Black gram)の育っている耕地が時々みられたが(写真2 の緑の部分がケツルアズキ)、他は雨季作の稲の刈跡の藁株の水田が一面に広がっていた(写真3)。グワ(Gwa)郡の農業局の作物統計によれば、グワ郡の稲作は今でも人手による労働力に頼った雨季の天水稲作に依拠している。写真4 と写真5 が牛や水牛に牽引させて使用する農具で、犂先などの鉄製の部分を除けば、これらは村の周辺に育った樹木を材料とし、手づくりしたものである。農具や農業景観は始めて訪れる人々にこの地の農業や作付体系が「伝統的」であると思わせるには十分である。「伝統的」とは常識的には「変化していない」もしくは「静態的」、あるいは、「近代化に対して発展していない」という意味で使われる場合が多い。したがってグワ郡の農民は伝統的農具と稲作の忠実な追従者と思われることだろう。私を含め、特に街に住んでいる外来者はこうした考えを抱きやすい。なぜこのようなことになるのであろうか?。多分、街に住んでいる外来者は、「スピード」、「新しい」、「経済」がキー・ワードとなった「近代化による開発」が実現したテンポの速い経済成長にあまりにも慣れすぎているからだと、私は考えている。本当に農民は農具も栽培作物も変化させてこなかったのだろうか?。そうではない。もちろん変化させてきた。農民は自分たちの必要に応じて変化させてきたのであり、外来者の要求に応えるためではない。私たちの調査によれば、畑用耕作に使う木製ローラーであるDa Lein Tonは20年前に、水田の代掻き用のSettonは15年前にイラワジ方面から伝えられた。犂であるTeは(すでに過去2回の出張報告でも報告しているように)、ベンガル犂からビルマ犂へとこの約50年間の間に形を変えている(写真5)。また、高収量品種が導入され天水田の条件下で栽培されているのである。しかし、こうした変化は、村人の暮らしや村の景観とあまりにも自然に、あるいは調和がたもたれているので見過ごされがちなのだ。外来者はこうした新しい技術変容さえも「伝統的」ないしは「変化していない」という間違った判断をしがちなのである。クリーク沿いに生えるニッパヤシの景観はあまりにも自然であり、村の景観に溶け込んでいる(写真6)。しかし、いずれのニッパヤシも自生ではなく栽培されている。私にとって「伝統的」とは村の景観におけるニッパヤシのようなものに思われる。恐らく農村の暮らしにおける「変化」の様式とスピードが、村人の主体的な意志とペースに一致していれば「変化」は外来者の目には「伝統的」に映るのだろう。
       儀礼研究においては、「伝統的」とは「変わらないこと」あるいは「権威」の象徴となっているようだ。しかし、村で生きる人々の支援を目指した農村開発研究においては、「伝統的」とは暮らしの持続性を村人に付与してきた「こと」であり、外来者が学ぶべき「こと」なのである。私たち外来者は「伝統的」である「こと」の法則性を理解することで、持続的な方法によって村での暮らしを発展させるための「新たな試み」を村人とともに創造することができる。現在、バンングラデシュ、日本をはじめとして多くのアジア諸国で、村人の主体的な意志を無視した早急な近代化が結局は持続性を持ち得なかった多くの経験を私たちは知っている。時には、近代化は農村の暮らしを以前よりも悪化させている場合もある。そうならないためにも、「伝統的」なるものから「変化」のあり方を学ぶ必要があと言えよう。
     
      写真2 ケツルアズキ Landscape in March,2001 写真3 雨季作の稲の刈取後 Landscape in March,2001‐2
     
      写真4 Agricultural Tools 写真5 (左)ベンガルAt / (右)ビルマ犂Te
     
      写真6 ニッパヤシ
     
    共同研究・院生支援
       「伝統」と「文化」に関する研究は、ミャンマーでもいまなお歴史学、人類学などの社会科学の分野の対象であるという常識が根強い。また、農村開発とは無関係であると考えられがちである。このワークショップの目的は、これらの常識を少しでも打ち破り、農学、理学、地理学などとの総合的学際研究が「伝統」と「文化」の研究には大変有効であり、農村開発における「伝統」と「文化」は持続的発展を考える上で重要な視点を提供しているという認識をミャンマー関係者と共有することであった。東南アジア教育省組織歴史伝統文化地域センター(SEAMEO-CHAT)、ヤンゴン大学、大学歴史研究所(UHRC)の関係者ら発表者を含めて約50名の出席者となるワークショップであったが、この初期の目的は達成されたと自負している。
       ワークショップには 21COEプログラムでマウービンでの共同研究に参加しているヤンゴン大学大学院博士課程の院生も参加した。また、地理学科の研究助手のグワ郡における漁具と漁業に関する修士論の成果とカチン州での焼畑に関する講師(現在博士課程在学)の博士論文の一部をワークショップでも発表してもらった。

     

      今後の課題
        滞在期間中に2004年度(2004年4月から2005年3月)の予定について、SEAMEO-CHAT所長、副所長、担当者、顧問と話し合いをもった。運営方法と共同研究については2003年度を倣うことが確認され、予算的な裏付けが出来たならば2004年度の新たな事業として、2005年2月に大学院生と若手研究者を主役とする以下のタイトルセミナーを開催する。セミナーの内容や開催時期、出席者については、今後とも必要に応じて両者の合意で変更されるが、下記のような合意が得られた。

    International Workshops: The Fresh Perspective on Area-Studies of Myanmar and Her Surroundings: The Works of Asian Junior Scholars ( Program's contents are tentatively decided )

    1. Tentative Date: Full Tow days in February 2005.
    2. Place: SEAMEO-CHAT
    3. Organizing: SEAMEO, CSEAS, and 21COE Program
    4. Objective: The open and free discussion on the New Perspective on Area Identities of Myanmar and her surrounding regions on the basis of empirical case studies including Yunnan, Eastern India, Assam, Bangladesh and Southeast Asia by Junior Scholars of Myanmar, Japan and SEAMEO-CHAT Member Countries.
    5. Presenter: 20 scholars
      Myanmar- Yangon Universities Ph.D. Candidates studying under this Joint Program, SEAMEO-CHAT Young Research Staffs and other relevant Organizations.
      SEAMEO : CHAT Member Countries- Thailand, Laos, Malaysia
      Japan : Ph.D. level students of ASAFAS and other universities working in Myanmar , Eastern India , Assam , Bangladesh , and Yunnan .
    6. Other Participants for Discussion: 20 personnel from Yangon Univ. other higher research, educational institutes including Agricultural Univ. & Forest Univ. in Myanmar, Embassy of Japan, JICA and Program Organizers
    7. Budget Arrangement: Apply to 21COE Program for the 2004 JFY.

     

     
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