報告
渡航期間: 2003年7月19日〜2003年9月1日    派遣国: タンザニア
  出張目的
  タンザニアの農村貧困問題に関する臨地調査および臨地教育
  池野旬 (大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・アフリカ地域研究専攻)

 

  活動記録
  7月19日(土)〜7月20日(日)
  • 関空発 − ドバイ経由 − ダルエスサラーム着
      7月21日(月)〜7月22日(火)
  • ダルエスサラームにて調査許可延長手続き、資料収集、貧困削減政策に関してダルエスサラーム大学研究者と意見交換
      7月23日(水)
  • ダルエスサラーム発 − モシ着
      7月24日(木)〜8月1日(金)
  • モシ周辺にてタンザニア・コーヒー産業に関する臨地教育
    訪問先:タンザニア・コーヒー公社(Tanzania Coffee Board: TCB)、タンザニア・コーヒー研究所(Tanzania Coffee Research Institute: TaCRI)、キリマンジャロ原住民協同組合連合会(Kilimanjaro Native Cooperative Union: KNCU。やや奇妙な名称のようだが、植民地期以来の由緒ある名称である。)、同協同組合連合会傘下のキボショ・カティ協同組合(Kibosho Kati Rural Cooperative Society)およびキリマ・ボロ協同組合(Kilima Boro Rural Cooperative Society)の事務所ならびにコーヒー生産農家、ヴアス協同組合連合会(Vuasu Cooperative Union: VCU)、同協同組合連合会傘下のチェゴ協同組合(Chego Rural Cooperative Society)およびキンドロコ協同組合(Kindoroko Rural Cooperative Society)の事務所ならびにコーヒー生産農家
      8月2日(土)
  • モシ発 − ムワンガ着
      8月3日(日)〜8月25日(月)
  • 農村貧困問題に対処するための小農の生計戦略の関する臨地調査
    主たる調査対象地域:ムワンガ県ムワンガ郡キルル・ルワミ村ヴドイ村区キリシ集落(Mtaa wa Kirisi)
      8月26日(火)
  • ムワンガ発 − モロゴロ着
      8月27日(水)〜8月29日(金)
  • ソコイネ農業大学地域開発センター(SUA Centre for Sustainable Rural Development。略称SCSRD)が実施している持続的農村開発プロジェクトの対象農村見学、農村貧困削減に関してSCSRD研究者との意見交換
      8月30日(土)
  • モロゴロ発 − ダルエスサラーム着
      8月31日(日)〜9月1日(月)
  • ダルエスサラーム発 − ドバイ経由 − 関空着

     

      結果と進捗状況
     
    (1)臨地教育
      「タンザニア・コーヒー産業の趨勢とムビンガ県コーヒー農家の生計戦略」を研究課題としているD. Mhandoさん(平成14年度第3年次編入。タンザニアからの国費留学生)に対して、調査結果の論点整理や今後の研究の進め方などについて指導を行った。
      タンザニアではコーヒー生産者価格が低迷を続けており、同国政府は2002年にコーヒー流通制度を改変して対応を図ったが、いまだに生産費をカバーできない状態が続いている。現状を把握し、今後実践可能な改善策を検討するため、関係機関、協同組合連合会、単位協同組合、生産農家といった利害関係者に対して聞き取り調査を実施するとともに、コーヒー関連法令、コーヒー生産量動向等の資料収集を行った。
    (2)臨地調査
      有力な換金作物を持たない平地村であるキルル・ルワミ村のキリシ集落周辺の圃場では、山間部の他村に位置する小規模な溜池を利用して、1990年頃から自給用のインゲン豆栽培のための乾季灌漑作が実践されている。用水の多寡、世帯の人口動態に応じて毎年実施状況が異なる乾季灌漑作について、本年度の実態について調査を行った。2つの水系のうち、片方の水系では例年通り乾季灌漑作が実施されていたが、もう片方の水系では用水管理者が用水量不足と判断したため他の世帯も灌漑作をまったく行わず、代わって河岸畑を利用した乾季作を実施したり、あるいは採石・煉瓦製造販売等の村内非農業就労を展開していることが判明した。貧困問題に対処するための生業多角化のなかで、生業間での柔軟な移動を示す事例と考えられる。

     

      今後の課題
     
    1. タンザニアの最大の輸出産品であるコーヒーについては、南部地域(Mbinga県)を対象として実態調査を行おうとしているMhandoさんと連携して、北部の主産地(Kilimanjaro山周辺地域)でも臨地調査を行う必要があろう。
    2. キリシ集落が含まれるヴドイ村区では、既存の水道施設の増設を、行政組織に頼らず地域住民主体で遂行しようと計画しており、今後どのように組織化と資金集めがなされるのか等について、自発的な住民参加型開発の事例として追跡調査していくことが肝要である。
    3. 今回は臨地教育および臨地調査を重点的に実施し、ダルエスサラーム大学とソコイネ農業大学での研究者との意見交換にはあまり時間を割けなかった。大学院アジア・アフリカ地域研究研究科は両大学とすでに客員研究者・大学院生受け入れ等を通じて学術交流を図っているが、21世紀COEプログラムの趣旨に即した、さらなる協力関係を構築するための枠組み作りは次回以降の課題である。

     

     
    コーヒー生産農家で聞き取り調査を行うMhandoさん(右端)   灌漑中のインゲン豆畑(右)と立ち枯れのトウモロコシ大雨季作畑(左)
     
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