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ウガンダ共和国北東部モロト周辺地域において2005年1月5日から3月23日まで現地調査をおこなった。「研究目的」欄で設定した3つの課題に即して、調査内容とともに明らかにしたことを以下に順次のべる。
- ウシ、ヤギ、ヒツジについて数百頭ずつ写真撮影をし、聞きこみを行なった。この調査をとおして、体色構成が単色からなる個体は少数であり、複数の色彩をもつ個体が家畜群の大半を占めていること、つまり複数の色彩が分布する仕方(すなわち模様)によって個体間に差異がもたらされているとの予察をえた。この点について、精度上の制約を考慮しながら、撮影した写真を用いて以下の手順で分析のほりさげを定量的に試みる。
- 家畜1頭ずつについて体表面をひとつひとつのドットに分割し、それぞれのドットについて色相、彩度、明度を明らかにするともに、個体間の異同について比較、検証する。これをとおして、家畜の体色構成を把握し、同時に、体色によって個体間にもたらされている多様性の幅を確定する。
- 色分けされたドットの分布の仕方を、とくに均質分布であるのかそれとも集中分布あるいはランダム分布なのかに注目して検討する。これをとおして、色彩が均質に重なり合う個体(単色的な個体)とそうでない個体(模様のある個体)の実際が把握されるとともに、aの結果と統合することによって体色の多様性が発現する具体的な仕方をおさえる。
- 1人ずつ100枚の色彩カードについて質問し色彩語彙についての回答をうる調査をおこない、色彩を指示する基本語彙とそれによって指示される色彩の範囲が明らかになった。また被験者が単色のカードのなかに縞模様や斑模様をみいだしてしまうという「錯視」の現象が観察された。
- 牧歌の調査をつうじて、放牧の経験者のすべてが自作の持ち歌を有していることがわかった。録音と歌詞の転記、翻訳をおこなった結果、色彩語彙の出現頻度が高く、色彩をつうじて家畜から「その他のモノ」へ移行するという歌詞展開のパターンが確認された。さらに、物体間の距離の自在な縮尺変化や地と図の反転現象、暗順応や明順応を介した「錯視」によっておこる視覚イメージの変化が積極的に歌われるなど、色彩・視覚の転位によって生じる「見え」が詩のモチーフを構成していることがわかった。