(3) プナン・ブナルイの植物に関する民俗知識の収集と証拠標本の採集を行った(2002年から継続して行っている)。この民俗知識の収集の成果から、プナン・ブナルイの植物分類がこれまで研究されてきた狩猟採集民に比べ詳細であること、また利用植物数も豊富(但し、薬用や儀式への利用植物数は同地域の農耕民より少ない)であることを示し、これらの特徴を熱帯雨林で生活する狩猟採集民であるという背景と関連づけて理解する論文を執筆した(雑誌投稿中)。
植物知識の学習手段は個人個人で異なるが、10代半ばから20代半ばていどの大人になりはじめた頃から集中的に、森の中であるいは家で自分の親から教わることが多い。それをどの程度記憶できるかは、個人の能力、その後の生活(森へどの程度頻繁に入るか)などによって異なる。基本的な名前、知識はそのように親などから教わるが、おなじ仲間のひとつひとつの植物の生育地・使用方法・質などの違いについては個人の観察・試行錯誤によってはじめて学ぶことができる部分も大きい。
定住生活のなかでも、男性は狩りや自家用・販売用の林産物採集のために頻繁に森に入るため、若い世代でも植物知識の豊富な個人は多い。これに対し、現在の生活の中では女性は森に入る機会が少なく、30歳くらいまでの女性で森林植物をよく知っている個人は調査した約10人中にはみられなかった。