フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2004年6月15日〜2005年1月2日, 派遣国: インドネシア
(1) Ethnobotany of the Penan Benalui of East Kalimantan, Indonesia
小泉都  (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: 民族植物学,プナン・ブナルイ,民俗分類,植物利用,ボルネオ


プナンのインフォーマントとLicuala sp.
(2) プナン・ブナルイはボルネオ島の内陸部の森林で移動生活を営む狩猟採集民であった。しかし、1960年代から村に住みはじめ、現在では狩猟採集とともに農耕も重要な生業となっている。
  博士論文では、狩猟採集民としてのプナン・ブナルイがどのように植物を認識および利用してきたかを具体的に記述する。これを他民族についての先行研究と比較しながら、プナン・ブナルイの植物知識の特徴について熱帯雨林に暮らす狩猟採集民という背景の影響を考えながら考察する。
  上の考察では植物知識を村落単位で扱うが、植物知識は動的な性質をもっている。個人的な経験に左右される植物知識の学習過程、植物知識の個人差についても考察する。
   現在の植物知識の個人差とくに男女間の差には、移動・狩猟採集から定住・農耕という生活様式の変化に起因する部分もある。これまでの植物知識の変化を考察するとともに、今後の変化についても考える。

(3) プナン・ブナルイの植物に関する民俗知識の収集と証拠標本の採集を行った(2002年から継続して行っている)。この民俗知識の収集の成果から、プナン・ブナルイの植物分類がこれまで研究されてきた狩猟採集民に比べ詳細であること、また利用植物数も豊富(但し、薬用や儀式への利用植物数は同地域の農耕民より少ない)であることを示し、これらの特徴を熱帯雨林で生活する狩猟採集民であるという背景と関連づけて理解する論文を執筆した(雑誌投稿中)。
  植物知識の学習手段は個人個人で異なるが、10代半ばから20代半ばていどの大人になりはじめた頃から集中的に、森の中であるいは家で自分の親から教わることが多い。それをどの程度記憶できるかは、個人の能力、その後の生活(森へどの程度頻繁に入るか)などによって異なる。基本的な名前、知識はそのように親などから教わるが、おなじ仲間のひとつひとつの植物の生育地・使用方法・質などの違いについては個人の観察・試行錯誤によってはじめて学ぶことができる部分も大きい。
  定住生活のなかでも、男性は狩りや自家用・販売用の林産物採集のために頻繁に森に入るため、若い世代でも植物知識の豊富な個人は多い。これに対し、現在の生活の中では女性は森に入る機会が少なく、30歳くらいまでの女性で森林植物をよく知っている個人は調査した約10人中にはみられなかった。

 
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