フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2004年9月2日〜2005年1月30日, 派遣国: エチオピア
(1) 住民組織の活動と公共空間:エチオピアのグラゲ道路建設協会と葬儀講
西真如 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 住民組織,公共空間,市民社会,開発,NGO


アジスアベバの青果市場で働くグラゲの若者たち

村の小学校:都市と農村で暮らすグラゲの人びとが協力して建設した

グラゲの伝統的な村落:ジャフォルと呼ばれる広場の両側に家屋が立ち並ぶ
(2) アフリカの公共空間についての従来の研究が、国家と民族との対立という視点、あるいは市民社会の導入という問題意識のもとで描かれてきたのに対し、この研究では、住民組織の活動の分析をとおして、生活に根ざした公共空間を形成し、維持しようとする人びとの試みについて理解することを目指す。具体的には、1962年に結成されたグラゲ道路建設協会の事例を中心に据え、エチオピアでもっとも広く普及している住民組織である葬儀講(iddir)や、近年急速に成長してきた開発NGOとの比較をとおして、地域社会で生活する人びとの活動を分析してゆく。

(3)  調査地はアジスアベバおよび南部諸民族州、調査期間は2004年9月2日〜2005年1月30日である。昨年度から引きつづき、グラゲ道路建設協会や葬儀講について、聞き取りと資料収集をおこなったほか、在来の住民組織の活動と比較するため、開発NGOの活動動向についても調査をおこなった。本年度は特に、グラゲ道路建設協会の活動史について詳細な聞き取りをおこなうとともに、同協会の下部組織であるエジャ開発委員会の近年の活動について現地調査をおこなった。また道路建設協会の調査とは別に、アジスアベバの貧困地区で、葬儀講の活動と規範についての聞き取り調査と資料収集をおこなった。その結果、以下のようなことが明らかになった。

  1. グラゲ道路建設協会は、非政治的な開発活動を目的として1960年代に設立されたが、協会の幹部らは、当時の貴族制支配に対抗するために農村を近代化するという、明確な意図を共有していたと考えられる。
  2. 近年では同協会そのものよりも、下部組織である氏族別の開発委員会による活動が活発になっている。これらの委員会は、国際社会による開発援助を積極的に受け入れることによって、地域社会への影響力を確保している。
  3. アジスアベバの貧困地区でおこなわれている葬儀講は、活動資金の横領や政府による資産の接収など、さまざまな危機を乗り越えて活動を続ける強さを持っていることがわかった。また同じ葬儀講に、民族や宗教の異なるメンバーが同居する傾向も確認された。

 
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