(3) シンガポールにおける私立の幼稚園・保育園では、英語教育と華語教育のウエイトがそれぞれの園によって異なっている。英語環境の家庭では、華語教育に力を入れている幼稚園に子どもを通わせる。他方、華語や華語方言環境の家庭では、子どもが小学校で教育を受けるために必要な英語を習得させるために、英語教育を重視している保育園に通わせていた。
児童の家庭における言語環境と言語教育との関係について調査するために、今回は、華語教育に力を入れている幼稚園と、その幼稚園に子どもを通わせている、ある英語家庭を取りあげて調査を行った。
家族間での会話等は英語であった。親子の会話は、母親が一日の内10分程度は子ども達に華語を話すが、父親は英語のみであった。また、母親は、市場で話す時は華語、彼女の母親と話すときは潮州語であった。新聞は英字新聞を読み、テレビは番組の内容によって英語と華語の両方で楽しんでいた。ニュースなどは殆ど英語放送で、バライティー番組やドラマなどは華語でも観ていた。しかし、華語番組の時には全て英語で字幕が出るものであった。
このように、日常生活であまり華語を使用しない環境なので、母親は華語教育を重視している私立幼稚園に子ども達を通わせている。2005年1月から、末っ子の三男がNursery(年少)クラスに入園したが、バスを乗り継いで1時間半もかかるので、母親が付き添って通っている。また、長男はPrimary School Leaving Examination(PSLE)のために、華語を個人的に習っている。
今回の調査で、「英語重視主義」の時代に教育を受けた両親に育てられた子ども達にとって、華語は教科科目の一つであり、日常生活ではあまり使用しない言語であることがわかった。一方、学校教育においては、バイリンガル教育政策のために、英語と同様に華語の得点が高い子ども達は進学に有利であるという状況であり、教育熱心な親は彼らに華語の勉強を強いている。
「華語嫌い」・「華語離れ」の子ども達が多くなってきたことから、幼稚園・保育園や小学校低学年の華語教育においては、日常のコミュニケーションが図れることに重点を置いた内容で行っている。そして、教師は、子ども達が華語に親しみ、楽しく学習ができるように、音楽や視覚教材を使用し、体験的な言語活動を行うといった、子どもの言語学習の特性を活かした方法で行っている。