(3) 本調査は2004年12月から2005年7月の7ヶ月間、バングラデシュ・モドゥプール森林地帯において、モドゥプール森林地帯の少数民族であるガロの移住プロセスと生業変化について明らかにした。
近年、特に環境に関する調査において、地域レベルで起こっている環境・自然利用のプロセスや、地域と巨大な利害関係間の対立の重大性がますます重要な話題となってきている。そうした中で、インディジニアスな知識はこのような議論の高まりに関連して、特に持続的な環境利用などの議論の文脈上重要視されるようになってきた(Agrawal and sivaramakrishnan 2001)。しかしそうした状況にもかかわらず、現状ではインディジニアスな社会は正しく理解されている事はまれである。通常その理解は、従来からの“伝統的”、“変化しない”、そして“時が始まって以来同じ所に居る”のようなものである。しかしこれらの無理解は、インディジニアスな社会や文化、知識等の“実態”を誤って理解する要因となっている。
そこでこの調査では第一に、モドゥプール森林地帯のガロについて、移住史に注目して彼らの移動性について明らかにした。モドゥプールのガロについて先行研究では、“少なくとも1000年前後の歴史がある(Burling 1995)”、“遺跡や伝説から判断して8世紀頃からすでに移住していた(Sachese 1917)”のように議論されてきた。本調査ではモドゥプールのガロの全村落から移住史を聞き取ることによって、モドゥプールのガロの人々の社会像は、従来言われていたようなものではなく、動的・流動的な実像を有していることを明らかにした。
そして第二に、上記のガロ社会のダイナミズムと関連して、モドゥプールのガロの人々の生業―特に移動耕作―に焦点を当てて、“インディジニアスな知識”という様に固定的に見なされてきたモドゥプールのガロの人々の生業が実は、生態的・歴史的な背景に応じて柔軟に変化しつづけていたものであった事を示した。