フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
<< 平成16年度 フィールドワーク報告へ戻る
渡航期間: 2004年12月1日〜2005年7月3日, 派遣国: バングラデシュ
(1) バングラデシュ・モドゥプール森林地帯における「森林減少」論と土地紛争
東城文柄 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: 森林減少,国立公園,環境主義,インディジニアス,伝統的土地所有権

バングラデシュの北部に位置し、東京都23区程の大きさがあるモドゥプール森林地帯で現在、ガロの人々は50村落、約1万2千人前後居る。そのうち20村前後が森林保全のための国立公園の敷地に含まれ国からの立ち退き圧力を受けているが、ガロの人々は伝統的な土地所有権を主張し反対運動を続けている。

伝統的な楽器の演奏を伝承するガロの男性。モドゥプールの残存する森林エリアには特に、ガロの人々の集落が多く見られる。
(2) バングラデシュ(南アジア)の文脈における森林管理・保全の問題点をモドゥプールの事例を通して考察する。

(3) 本調査は2004年12月から2005年7月の7ヶ月間、バングラデシュ・モドゥプール森林地帯において、モドゥプール森林地帯の少数民族であるガロの移住プロセスと生業変化について明らかにした。
  近年、特に環境に関する調査において、地域レベルで起こっている環境・自然利用のプロセスや、地域と巨大な利害関係間の対立の重大性がますます重要な話題となってきている。そうした中で、インディジニアスな知識はこのような議論の高まりに関連して、特に持続的な環境利用などの議論の文脈上重要視されるようになってきた(Agrawal and sivaramakrishnan 2001)。しかしそうした状況にもかかわらず、現状ではインディジニアスな社会は正しく理解されている事はまれである。通常その理解は、従来からの“伝統的”、“変化しない”、そして“時が始まって以来同じ所に居る”のようなものである。しかしこれらの無理解は、インディジニアスな社会や文化、知識等の“実態”を誤って理解する要因となっている。
  そこでこの調査では第一に、モドゥプール森林地帯のガロについて、移住史に注目して彼らの移動性について明らかにした。モドゥプールのガロについて先行研究では、“少なくとも1000年前後の歴史がある(Burling 1995)”、“遺跡や伝説から判断して8世紀頃からすでに移住していた(Sachese 1917)”のように議論されてきた。本調査ではモドゥプールのガロの全村落から移住史を聞き取ることによって、モドゥプールのガロの人々の社会像は、従来言われていたようなものではなく、動的・流動的な実像を有していることを明らかにした。
  そして第二に、上記のガロ社会のダイナミズムと関連して、モドゥプールのガロの人々の生業―特に移動耕作―に焦点を当てて、“インディジニアスな知識”という様に固定的に見なされてきたモドゥプールのガロの人々の生業が実は、生態的・歴史的な背景に応じて柔軟に変化しつづけていたものであった事を示した。

 
21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」 HOME