(3) 博士予備論文では本調査地の農業が、モロコシを中心とした低投入型自給農業から、トウガラシを中心とした高投入型換金農業へと変容しつつあることを述べた。今回は、特にトウガラシ栽培における高生産費の問題について農業生態学的観点から調査した。前回調査時のときに比べて一層高投入型換金農業への傾倒が進んでいただけに、その問題性も村人から指摘され始めている。今回得られた知見は以下のとおりである。アザミウマによる吸汁害やハスモンヨトウやオオタバコガによる食害の防除のための農薬代に生産費の20%が割かれていて、多くの農民は資金源を借金に依存している。そして今年のように販売価格が急落すると(前年比70%)、利子が日本のサラ金なみの借金を抱えることになる。農薬散布時に被爆すると悪心やカブレなどの症状が表れると言われていて、農薬散布に従事した村人のうち、約18%が今年だけで数回、注射などの処方を受けていた。しかし、農民たちには農薬散布以外の防除方法が知られていない。折よく、化学農薬を用いないで身近な素材から作れる代替農薬を用いることを現地NGOが提案している。幸いにも農民たちは有用植物に関しては豊富な知識を有していて、フジウツギ科マチン属樹木の果実が殺虫剤として利用し得ることを知っていた。実際に土地なし農民数人が、それら非木材林産物を採集して、定期市で政府系ブローカーに販売していた。トウガラシ栽培は収穫時に労働力を多く必要とするが、現在では調査村内だけでは人手不足になり、本調査地の農民は、土地が痩せている周辺村落や州外からの季節的移住労働者を雇用するようになっている。調査村内外の土地なし農民が、代替農薬の原料を森林から採取してきて加工することができれば、かれらも低投入型農業に参入できると考えられた。