フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2005年1月15日〜3月31日, 派遣国: カメルーン
(1) アフリカ熱帯雨林の生態史―コンゴ盆地北西部におけるバカ・ピグミーのヤム(Dioscorea spp.)利用に注目して
安岡宏和 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 生態史,熱帯雨林,バカ・ピグミー,ヤム(Dioscorea spp.),コンゴ盆地


ヤムの一種(Dioscorea semperflorens)を掘る女性

1日で30kgのヤム(Dioscorea praehensilis)を収穫した老夫婦
(2)  熱帯雨林は、人間にとってどのような環境なのだろうか。ひとくちに熱帯雨林といっても植生は変異に富んでおり、人間と動植物との関係もまた多様かつ多重であることをかんがえれば、この問いの包括的な解答をえることは困難であると容易に理解できよう。そこで本研究では、アフリカ中央部のコンゴ盆地にすむバカ・ピグミーによるヤム(Dioscorea spp.)利用のあり方を切り口として、アフリカ熱帯雨林の生態史の一断面をよみといていくことによって、人びとの生活の場としての熱帯雨林の理解を多少なりともおしすすめることを目的とする。

(3) 2005年1月15日からは、カメルーンの首都ヤウンデにおいて、2月16日にWWF-Cameroon(世界自然保護基金カメルーン支部)と合同で開催したワークショップの開催準備、および発表準備にたずさわるとともに、現地調査を実施するための準備をおこなった。現地調査は、上記の合同ワークショップをおこなったあと、カメルーン東部州ブンバ・ンゴコ県ズーラボット=アンシアン村にて2月20日から3月31日まで実施した。
  これまでの調査から、コンゴ盆地北西部の森林にはヤム=パッチとでもよべるヤムの群生している場所があり、そこで採集したヤムを主食とすることによって、他の林産物がすくなくなる乾季でも農作物に依存せずとも十分なカロリーを摂取することができることがあきらかになった。この結果をうけて、今回の調査では、このようなヤム=パッチが、どの程度の一般性をもってコンゴ盆地に分布しているのだろうか、という問いにこたえることを目的とした。
  今回の調査では、バカ・ピグミーが実施する長期狩猟採集行(モロンゴ)の食生活をささえているヤムの種ごとの特徴のちがいに注目した。カメルーンの森林地帯には15〜17種のヤム(Dioscorea spp.)およびヤムに類似した植物(Dioscoreophyllum spp.)が自生しているが、調査期間中にバカが利用したのは、そのうち8種であった。しかし、モロンゴの期間中に長期滞在するキャンプでは、サファ(D. praehensilis)とエスマ(D. semperflorens)の二種のみによって、ヤムによるカロリー供給の90%、全食物からのカロリー供給の60%をしめていた。この二種のヤムの共通点は、一年ごとに蔓をつけかえ、イモ(塊根)が一年周期で肥大・減衰する単年型のヤムだということである。成長期になると、光をうけることができる位置まで一気に蔓をのばす必要があるので、これらのヤムは開けた環境をこのみ、森林内の撹乱地(ギャップ)に群生して自生している。そのため、いったん群生地をみつければ大量に採集することができる。
  このようなヤム=パッチの動態には、もちろん、さまざまな要因がかかわっているだろう。ただ、今回の調査によって、ヤム=パッチはかぎられた地域に局地的に分布しており、さらに、モロンゴを実施している地域には百年ほどまえまで複数の村があったことがわかった。とすれば、そのあたりの森林はバカや農耕民によってひんぱんに利用されていたはずであり、かれらが生活することによる直接あるいは間接的な影響がサファやエスマの生育環境の動態に関与していたことは十分にかんがえられるだろう。
  今後は、ヤムの群生地の光環境・植生・土壌についての調査と、バカによるヤム利用の観察をもとに、ヤムの生育環境にたいする人間活動の影響の分析をおこなう予定である。

 
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