(3) 今回の現地調査では、2005年4月17〜27日と8月3〜16日に、京都大学大学院人間・環境学研究科の加藤真教授と川北篤氏のラオス調査に同行し、Vientiane県、Bolikhamxay県、Khammouane県、Xiengkhouane県、Houaphane県において植物採集を行った。本報告は、Vientiane平原に残された数少ないフタバガキ林の一つである、Houay Nyang保護林について焦点を当てる。同保護林は、Vientiane特別市近郊に位置し、合計808ヘクタールの面積を占めている。現在の法律のもとで県レベルや国レベルの正式保護林に指定されるために必要とされる10,000ヘクタールの面積に達しないものの、1975年の革命以前からの行政による保護林として、伐採や林産物の採集が禁じられている。しかし村落と接していることもあり、住民による違法伐採が後を絶たないようである。
同保護林には乾燥常緑林と乾燥フタバガキ林の2タイプの植生が分布していることが明らかとなった。乾燥常緑林では、高木層を形成するDipterocarpus alatusやAfzelia xylocarpaなどは疎らに残るのみで、大半は中低木で覆われている。乾燥フタバガキ林では、樹高5〜10メートル程度のDipterocarpus obtusifoliusやShorea obtusa、Shorea siamensis、Terminalia alataなどが優占している。またこれまでの調査により、「A field guide to forest trees of northern Thailand」で希少種とされているOrophea sp. (Annonaceae) のほか、Brachycorythis helferi (Orchidaceae: 写真1)、Pecteilis susannae (Orchidaceae: 写真2) など貴重な植物も観察された。
このように、Houay Nyang保護林は首都近郊という立地にもかかわらず、希少な植物の生育地となっていることが明らかとなった。しかし現在の林層から推察されるように、同保護林は伐採などによる強い攪乱を受けている。また付近にスタジアムやゴルフ場を建設することも計画されているため、早急に動植物相の調査を行う必要があると考えられた。また今後は、同保護林近郊の村落において植物利用に関する調査も行う予定である。
(参考文献)
Gardner, S., Sidisunthorn, P., and Anusarnsunthorn, V. 2000. A field guide to forest trees of northern Thailand. Kobfai Publishing Project, Bangkok.
Vaddhanaphuti, N. 2005. A field guide to the wild orchids of Thailand. Silkworm Books, Chiang Mai.