(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2005年7月18日〜8月10日, 派遣国: タイ
(1) タイ東北部・ヤソートン県に残る森林パッチの住民利用と森林の生態学的特徴
小野寺佑紀 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: 森林パッチ,住民利用,樹種組成,歴史,民俗


野生のきのこ(Termitomyces spp. AMANITACEAE)〔2004年7月 著者撮影〕

カムアン村周辺で見かけた大樹
〔2005年7月 生方氏撮影〕

野生のたけのこ〔2004年7月 著者撮影〕
(2) 森林の減少および分断化が進んでいる一方で、住民は一部の森林をパッチ状に残すことがある。そういった森林パッチは、保全生態学的に重要である(cf. Lebbie and Guries 1995, Mgumia and Oba 2003)。しかしながら、アジア・アフリカに残存する森林パッチの実態は不明な点が多い(cf. 山越 2003)。
  森林パッチに生育する樹木の胸高断面積合計(BA)や樹種組成といった生態学的特徴は、気象や土壌特性などの非生物的環境要因だけでなく、住民の利用形態やその履歴に影響を受けていると考えられる。森林パッチの生態学的特徴を調査することは、人為が生態環境に与える影響を評価する上で、適している。
  博士予備論文では、複数の森林パッチを対象として、樹木の生態学的調査を行い、住民による利用の形態や履歴がBAおよび樹種組成に影響していることが明らかとなった。しかしながら、住民による森林資源利用の詳細や、土壌条件、およびこの地域の原植生などは不明のままである。
  博士論文では、長期のフィールドワークを行い、この地域における森林パッチの成立過程を解析し、現存する森林パッチの生態学的特徴がどのようにしてもたらされたのかを、民俗、歴史、生態のそれぞれをふまえて総括的に明らかにして、住民の利用の上に成立・維持される森林パッチの保全生態学を考究する。

(3) 今回の派遣では、タイ東北部・ヤソートン県・カムクワンケーオ郡の東北部に位置するプラーイット村の村長に対し、森林利用に関する聞き取り調査を行った。調査は、8月初旬の数日間で行った。当村には、複数の里山や鎮守の森が残存しており、住民が現在も継続して森林資源を利用していることから、この地域における森林利用および森林生態を明らかにする上で必要なデータが得られると考えた。
   聞き取り調査の結果の一部として、thon ko (Lithocarpus sp.)の利用方法を知ることができた。同種は、博士予備論文の中で、里山において、BAが大きいという特徴があった。聞き取り調査によれば、同樹種は、割れやすい性質があるため、薪として利用しやすく、実が可食であり、さらにその煮え湯は出産直後の産婦の滋養によいとされている。村長自身も、妻の出産時には森へ入り、thon ko (Lithoracpus sp.)の木を伐採している。里山というアクセスのしやすい森林パッチでは、このような有用な樹種の利用が盛んに行われることが示唆される。森林パッチに生育する樹木の生態学的特徴は、利用形態やその履歴のみならず、樹種ごとの利用方法も加味する必要がある。その上で、利用価値のある森林パッチの保全が意義付けられると考える。

 
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